東京都北区十条の老舗酒場!
日本全国の美味しい料理を探し出し
呑兵衛たちの舌を唸らせる女将の物語
野生味あふれる「えぞ鹿レバー」!
今宵の舞台は、東京都北区十条。再開発真っただ中のJR埼京線十条駅西口地区から、きたろうさんと武藤さんが歩いてやってきたのは、創業31年目の「居酒屋 かつら」。駅前の再開発で現在の場所に移転し、ひとりで店を切り盛りしているのは、女将の遠藤きよ美さん(76歳)だ。長いカウンター席が特徴的な店内で、ふたりはさっそく焼酎ハイボールで、「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは青森県産の「アピオス」。「何それ?」と不思議そうなふたりの前に出てきたのは、里芋のような見た目の芋。北米原産のマメ科の植物で栄養価が高いそう。栄養が多いという皮ごといただいて、きたろうさんは、「甘い!」と驚き、武藤さんも「他のお芋にはあまりない味!」と気に入った様子だ。
30年前、45歳で十条駅の西側エリアに「かつら」を開業した女将。再開発による立ち退きで、5年前、駅から徒歩3分ほどの路地裏に移転してきた。「新しくできるマンションは賃料が高くて、とても入れない。お客さんに紹介してもらって、ひとりでやるのにちょうどいい場所を探したんです」。そんな女将は、30歳頃から、不動産や宝石店、スナックなどで働いていたそうで、1日で最高4社を掛け持ちしたこともあるとか。「やらなきゃお金を返せなかったから。旦那の方の兄弟がいろいろあって…。サラ金で2000万」と苦笑い。それでも、借金は返済し終わったそうで、「えらいなぁ…。女将が自慢げに話さないのも素敵だね」と感心するきたろうさんだ。
37歳の時には、展示企画会社で働き始め、日本全国を飛び回っていたそうで、お店のオススメメニューには、その時に出会った日本各地の名産品が! 「生きくらげ玉子とじ」、「まこも」、「馬刺し3種盛り(熊本県産)」など、女将お気に入りの名物が揃うのだ。そして、次にいただくのは、北海道直送の「えぞ鹿レバー」! ニンニクや紹興酒で炒め、塩で味付けした一品に、きたろうさんは、「牛や豚とは全然違う! 野生味を感じる!」と大興奮。武藤さんも「思ったよりクセはない。おいしい〜!」と味わった。
〆は「梅じゃこチャーハン」でさっぱりと!
「修業はしていないし、料理は我流。でも、なんとかなると思って開業しました。逆に借金があったからできたのかも」と飾らない女将。「特徴ある店にしなきゃと思って。日本各地をまわっては、おいしいものを教えてもらい、直接、生産者さんを尋ねる」のだとか。そんな女将の行動力に、きたろうさんは感心しつつ、「旦那はやってくれない?」と聞くと、「それはパス! いらない! 反対されるから内緒で開業したし、4年間黙ってたくらい」と笑いながら、「今もうちの出入り禁止は唯一、主人だけ。店に会社の同僚を連れてきたりすると大盤振る舞いしちゃいますから。一切お断り」と、きっぱりだ。
ここで登場したのは、「かつらドーフ」。絹ごし豆腐を乾燥させ麦味噌に漬け込んだ、鹿児島県の名物“麦味噌豆腐”は、チーズのような濃厚な風味。きゅうりと一緒に少しずつ海苔で巻いて食すのがおすすめ。武藤さんは、「酒飲みが好きな味! これをちびちび食べながら飲むのいいですね〜」とチューハイをゴクリと飲み干した。
ところで、店名「かつら」の由来は、「“かつらむき”ができなくて(笑)」と女将。きたろうさんが、「女将、かわいいよね。なんでもしゃべってくれるし」と言うと、常連さんたちも、「ちょっとしゃべりすぎ。借金の金額まで」と苦笑しながら、お店の魅力は、「やっぱりお母さん。会いに来て、美味しいつまみを食べながら飲む」、「女将は気さくだし、正直で気持ちがいい」と、口を揃える。
76歳になった今も、仕込みから掃除までを一人でやりきり、自分の城を守り続ける女将だが、「お客さんに、ほとんど全部手伝ってもらう。私は、料理だけしかしません!」とのこと。店にはお客さんの箸やマイグラスを置き、お酒を出したりするのもセルフサービス! 女将とお客さんの信頼関係が垣間見えた。
続いては、生のにしんを麹漬けにした北海道の珍味「にしんの切り込み」。初めて食べた武藤さんも、「これはおいしい! 臭みも全然ない。お茶漬けにいれると絶対おいしい〜」と目を細めた。
「お店をやっていてうれしかったのは、私が病気で2週間入院したときも、お客さんが助けてくれたこと。料理は持ち込みで常連さんたちが集い、店主はいないのに、店は開いてたんです」と、うれしそうな女将。長く店を続ける秘訣は、「考え込まないこと。そして、お客さんを大切にすること」。そんな話に、きたろうさんは、「いいよね〜。酒場ならではだね!」と深く頷いた。
最後の〆は「梅じゃこチャーハン」を! 静岡県産のじゃことカリカリ梅を炒め合わせたチャーハンは、さっぱりした味で〆にぴったり。すっかり堪能するふたりであった。
酒場とは、「老け込まない場所。歳をとらないために頑張る!」と女将。きたろうさんは、「お客さんもそうだよね。みんなが老け込まないように、酒場に来て楽しむんだよ」と、大いに納得である。