料理一筋65年のご主人が作る
手間暇かけた絶品料理
上品で繊細な味わいに感激!
旬の食材を贅沢に!「前菜七種盛り」
東京都墨田区本所吾妻橋にやってきた、きたろうさんと武藤さん。間近にそびえ立つスカイツリーに圧倒されながら、向かった今宵の酒場は、平成23年創業の「四季の味 みず穂」。すでに常連さんたちで賑わう店内で、ご主人の土屋隆司(りゅうじ)さん(80歳)と妻の直子さん(73歳)に迎えられ、ふたりはさっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、旬の食材を使った「前菜七種盛り」。「木の芽田楽」や「生たらこの煮こごり」、「かぼちゃの桜餅」や「干し柿の印籠づめ」など、すべてご主人の手作りだ。まずは、「ふたみ穴子」から食したきたろうさん、「旨いっ」と唸り、次々平らげて、「京都に来たかと思うよ。素晴らしい!」と絶賛。「どれから食べよう?」と迷っていた武藤さんも、「全部上品で繊細な味」と感激し、「もうなくなっちゃった」と、あっという間に完食だ。
中学卒業後、長野県から上京し、日本橋の和食料理店で修業を始めたというご主人。32歳からは、寿司職人の兄が始めた東京広尾の和食料理店で働き、29年間、料理の腕を磨いた。「夜汽車に乗って16歳で東京に出て、右も左も分からない。修業は怒られっぱなしで大変でした」。それでも、「料理を作るしか能がない(笑)。辞めようと思ったことも、他に手を出したこともない」と料理の道を貫き通した。
さて、次のおすすめは、今が旬の「筍の煮物」。筍と一緒に鳥つくねなども添えた手の込んだ一皿に、「高級料亭みたい!」とテンションが上がるふたり。一口食べれば、「旨いっ! 出汁が見事だね」と、きたろうさん。武藤さんも「お家じゃ絶対できない。この出汁でお酒飲める!」と喉を鳴らした。
今年81歳を迎えるご主人が、夫婦で「四季の味 みず穂」を開業したのは68歳の時。「もともとここで82歳のおばあさんが店をやっていて、私も飲みに来てたんです。でも、その方が亡くなって。周りのお客さんたちに後押しされて、私がやることになった。最初は3年だけのつもりが、もう12年」と笑う。そんなご主人を支える女将の直子さんは、「主人が勝手に決めてしまって。でも手伝うしかないよね。ひとりではできないから」と、「みず穂」開業以来、12年間ご主人を支え、店に立っている。
隆司さんと同じく長野県出身の直子さんは、25歳の時、お見合いで隆司さんと結婚し、上京した。「結婚するとき、父から、『板前っていうのは遊び人だ』と言われたとおり、この人、めっちゃ女好きなの。いろいろありましたよ。『忍』の一文字です」と苦笑い。「それでもずっと一緒に?」と言う武藤さんに、「あなたも結婚すれば分かるわよ!」。
そんな夫婦の様子に、常連さんたちも、「料理は一級品で、夫婦の掛け合いは非常にスリリング。毎回ハラハラドキドキです」、「2人はいつも喧嘩している(笑)」と言いながら、「“おかえり〜”という温かい雰囲気が魅力」と、夜な夜な「みず穂」に集い、酒を酌み交わすのである。
ふわふわ穴子がとろける! 「穴子ちまき」
ここで、次のおすすめ、揚げたての「海老しんじょう」が登場! 「普通はタラの身を混ぜたりしますが、これは海老100%」だそうで、武藤さんは、「ふわふわプリプリ。食感が軽い〜」と止まらない。料理のこだわりは「あまり加工しすぎないこと」と言うご主人だが、手間を惜しまず丁寧に作り上げるご主人の料理は、食べる人の舌を唸らせる。直子さんも味見をしたり、意見を言ったりしながら、夫婦二人三脚でやってきた店だが、跡取りはいないとのこと。「お客さんが悲しむじゃない」というきたろうさんに、「あと3年は続けるつもり。その後は、故郷の長野で畑をしながら近所の人に料理を作ってあげるのが夢」と話すご主人だった。
続いては、「胡麻豆腐」を! ペースト状にした胡麻と吉野葛を昆布出汁で溶いてつくるご主人自慢の一品に、武藤さんは、「こんなに大きな胡麻豆腐が食べられるのうれしい!」と目を輝かせながら、「おいしい〜。トロっとして胡麻の風味がすごい!」と大満足だ。
ここで、ご主人が出してくれたのは、ふたりの故郷・信州の味「ふき味噌」。「お酒にはもってこいですよ」と女将もイチ押しで、きたろうさんは、「これはチューハイのためにあるようなもんだね」と頷き、初めて食べたという武藤さんも、「おいしい!」とグビグビ!
そして、今宵の〆は「穴子ちまき」。店名の由来でもある、直子さんの故郷・長野県飯山市瑞穂(みずほ)から取り寄せる餅米に、ふわふわに蒸した穴子を乗せて、竹の皮で包んだちまき。とろけるような穴子と餅米が何とも言えない相性で、武藤さんは、「口に入れた瞬間、穴子が溶けてなくなる! おいしい〜」とうっとりだ。
「お客さんに料理を喜んでいただけるのが一番うれしい。仕事で辛いなんて思ったことない」と語るご主人。酒場とは、「誰でも来られる場所。みんなでワイワイ、ガヤガヤできる場所だね」と楽しそうに話し、直子さんは、「モヤモヤした気持ちを吐き出す場所!」。そう言って、最後にもう一度、みんなで「乾杯〜!」。