創業34年目の人気老舗酒場
昭和レトロな大衆酒場に憧れ
二代目を継いだ若き女将の物語
一番の人気メニュー!「ポパイベーコン」
今宵の舞台は、東京都江東区清澄白河。深川エリアと呼ばれる、歴史と新しい文化が融合する下町情緒あふれる街で、きたろうさんと武藤さんが訪れたのは、平成2年創業の老舗酒場「居酒屋 だるま」。コの字カウンターのある落ち着いた雰囲気の店内で、二代目女将の吉田吏甫(りほ)さん(30歳)に迎えられ、さっそく、ふたりは焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、「まぐろの三種盛り合わせ」。分厚く切った赤身と中トロに、シャキシャキしたネギがアクセントのネギトロ。贅沢な盛合せに、「味が濃くておいしい!」、「旨みが口いっぱいに広がる〜」と大興奮のふたりである。
創業34年の老舗酒場ながら、女将は30歳という若さ。昨年まで10年間、様々なアルバイトで生計を立てていた吏甫さんは、当時、別の飲食店で働いていたが、縁あって「だるま」の二代目女将に立候補したという。「私が働いていた店のオーナーが、『だるま』の経営を引き継ぐことになって。私は常連客でもなんでもなかったのですが、お客さんとの距離が近い大衆酒場の雰囲気が好きで」と、29歳で老舗酒場の女将デビューを果たしたのだ。それを聞いて、驚くきたろうさんに経緯を話してくれたのは、カウンターで飲んでいたオーナー夫人の大富夏子さん(48歳)だ。「私は、もともとお客さんとして『だるま』に通っていたのですが、先代夫婦が引退されると知り、主人と一緒に『こんなにいいお店は、絶対続けないと!』と経営を引き継ぐことに。彼女が二代目に立候補した時は、大したもんだと思いました(笑)」。
料理を担当するのは、先代の頃から勤める板長の勝野健二さん(53歳)。「かっちゃん!」と吏甫さんに呼ばれて顔を出した勝野さんだが、「代替わりする時はどうでしたか?」と聞かれて、しどろもどろ。きたろうさんに、「板長、しゃべるのが下手だねぇ(笑)。料理人は口じゃなくて腕が勝負だもんね!」とツッコまれるのだった。
次のおすすめは、ふわふわ卵の「ポパイベーコン」。ほうれん草とベーコン、卵などを絶妙な味付けで炒めた、ボリュームたっぷりの一皿に、武藤さんは、「味付けが優しいけど、お酒に合う! 家ではなかなかできない味」と、お箸もお酒もぐんぐん進む!
バター醤油が香る「焼きうどん」で〆
ところで、熊本出身の吏甫さんは、二代目を継いでまだ1年3ヵ月。店の歴史や深川エリアについては、あまり詳しくないとのことで、先代女将の松田りつ子さん(82歳)にご登場いただき、創業当時の話を聞くことに!
「最初はここでスーパーをやってたんです」と話し始めたりつ子さん。今から48年前、夫の直治(なおじ)さんと現在の場所でスーパーを始めたが、大手スーパーの進出により14年後に閉店。平成2年に同じ場所で、「だるま」という屋号の仕出し弁当店を開業した。すると、「朝に仕事を終えたタクシーの運転手さんたちが、飲ませてほしいと来るようになって」、酒場に転向。屋号には、「七転び八起き。何度倒れても起き上がる」という思いを込めたという。「お客様に愛されてここまで来られた」と充実した表情のりつ子さん。「『だるま』をそのまま残してくれる人に継いでもらえたら」というご主人の願いもかなったと教えてくれた。
続いていただくのは、板長の勝野さんが作る「厚焼き玉子」。天かすとネギが入った先代女将直伝の一品に、きたろうさんは、「あ〜、うまい! さすが深川って感じだ」と唸り、武藤さんも、そのおいしさに目を細める。
お店の魅力は、「お客さん同士がみんな友達になるような雰囲気」と、りつ子さん。先代夫婦は現在も店の二階で暮らしていて、今でも常連さんから「ちょっと降りてきて」と呼び出されることも多いとか! 吏甫さんも、そんなアットホームな雰囲気を大切にすることで、老舗酒場の暖簾を守り続け、最近は若いお客さんや外国人のお客さんも増えたとのこと。二代目女将の働きぶりに、りつ子さんも太鼓判を押し、「大切なのは、お客様を本当に大事にしていくこと。どんな人でも大事にしていると、不思議と心が通じ合うんです」と語った。
ここで登場したのは、「マカロニチーズ」。吏甫さんが考案した新メニューで、自家製ベシャメルソースに絡めたマカロニにたっぷりのチーズをのせ、表面をこんがりと焼き上げる。お客さんにも大人気で、「マカロニもチーズもたっぷり! 濃厚でおいしい〜」と武藤さんも大満足だ。
「気遣い」を大切にしていると言う吏甫さん。「二代目を継いだ時は、プレッシャーしかなかった。間違えちゃったかなと思った……」と振り返ると、「気遣わせちゃったな」と常連さんが優しく声をかけ、「すごく一生懸命やってますよ!」と、こちらも太鼓判を押してくれた。
最後の〆は、「焼うどん」! 野菜たっぷり、バター醤油の香りが香ばしい「焼うどん」に、「バターの風味がすごい! これは〆にいいな」と、最後まで箸が止まらないふたりなのだった。
吏甫さんにとって、酒場とは「ホッとする場所であり、ストレスを発散する場所」。これからも、ますます楽しみな一軒である。