料理人31年の元力士が
病いに倒れた妻への想いを胸に
守り続ける人情酒場!
辛みと甘みが絶妙! 「からしれんこん」
東京都江戸川区西小岩にやってきた、きたろうさんと武藤さん。京成小岩駅から柴又街道を歩いて向かった今宵の酒場は、平成26年創業の「旬菜 和喜多」。木のぬくもりを感じる落ち着いた店内で、ご主人の小貫(おぬき)幸夫さん(57歳)に迎えられ、さっそく、ふたりは、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、自家製の「からしれんこん」。白味噌に卵黄や砂糖を加えた玉味噌ベースの辛子味噌をれんこんに詰めて揚げる。「ピリっとした辛さにまったり甘みもあっておいしい〜!」と武藤さん。きたろうさんも一口食べて、「旨いねっ! 普通のからしれんこんと全然違う」と感激し、ご主人は、「れんこんも今が一番美味しい時期ですから」と胸を張った。
「昔から料理好きだったんですか?」と尋ねると、「もともと力士だったんで」とご主人! 「ええっ!?」と、信じられない様子のきたろうさんと武藤さんに、ご主人は「だいぶ痩せたんですよ。舞の海関のいた出羽海部屋でした。幕下で終わっちゃいましたけど」と明かす。埼玉県川口市で生まれ育ったご主人は、中学時代に柔道の全国大会で団体3位の活躍を見せ、中学卒業後、出羽海部屋にスカウトされた。15歳で初土俵を踏み、一時は幕下まで昇進したものの腰のケガが原因で26歳の時に引退。「当時、力士の第二の人生は、ちゃんこ屋さんが多かった」と、ちゃんこ料理店で修業を始めた。しかし、実際働いてみると、「ちゃんこ屋は夏にお客さんが来ない。一年通してお客さんに来てもらいたい」と、ちゃんこ屋から和食店へ修業の場を移した。「修業は大変でしたが、相撲部屋でしごかれてきたので、多少のことは我慢できた」と、3軒の和食店で約17年間修業を重ね、46歳で「旬菜 和喜多」を開業したのだ。
さて、次のおすすめは、「アジなめろう」。千葉県産の新鮮なアジを刻み自家製味噌と生姜、ネギを加えて叩き混ぜる。海苔に包んでいただけば、「薬味が利いててさっぱりしてる。おいしいっ」と目を細める武藤さん。きたろうさんも、「海苔と合うね〜」と大満足だ。
店は創業11年目。屋号は、妻の実家の精肉店「和喜多」が由来だそうで、開業当初は、妻とふたりで店を切り盛りしていたという。妻の桂子さんとは力士時代に出会い、26歳で力士を引退すると同時に結婚。20年後、夫婦で「和喜多」を開業し、桂子さんは女将として夫を支えてきた。しかし「6年前、妻が脳出血で倒れて。命は助かったんですが、後遺症で体が動かせなくなって。でもそばにいてほしくて、家で介護しながら店をやっています」とご主人。きたろうさんは、「えらいな。優しいよ、大将」と頷くのだった。
〆はやっぱり「塩ちゃんこ」!
続いては、そんな妻・桂子さんと一緒に考案した思い出の一品「牛肉入りだし巻き」を。すき焼き風に味付けしたA5和牛を玉子焼きの中に入れ、カツオ出汁をかけてあり、きたろうさんは、「卵が繊細! うなぎより旨いかも!?」と箸が止まらない!
愛する妻が病に倒れて以来、ひとりで店を切り盛りしてきたご主人。「カミさんと二人三脚でやってきたので、あの時、もし亡くなっていたら店も辞めていたと思う。本当にパーフェクトな奥さんで、ここまでこれたのも彼女がいたから。一番尊敬している人です」と言い、「だから店をつぶすわけにはいかないし、なんとか頑張ってます!」。すると、開業以来の常連さんたちも、「本当に頑張ってますよ」、「こんな旦那さんはいない。奥さんも幸せ者」と口を揃え、「大将にとっては、商売よりも何よりも女将さんがすべてで一番大切。大将は人情に厚い人柄だから、お客さんも自然とそういう人が集まってくるんです」と店の魅力を語る。そんな言葉にご主人も「お客さんには本当に助けられましたし、人情ある街ですよ、ここは」と嚙みしめるようにつぶやいた。
続いて登場したのは、「トマトチーズ焼き」! トマトの上にジェノベーゼソースをかけ、チーズをのせて焼き上げた垂涎ものの一皿だ。添えられたバゲットに、とろりと溶けたチーズとトマトを乗せて食し、「う〜ん、おいしい! おしゃれな味」と目を細める武藤さんだ。
ご主人の料理のこだわりは「旬のものを使うこと。ひとつの食材で何通りもの料理が作れるし、どう使っていくかでロスも減らせる」と話し、「お客さんにおいしかったと言われるのがやっぱり一番の快感。リピートしてもらったときは心の中でガッツポーズです。相撲で勝つのと一緒!」と笑った。
最後の〆は、出汁が自慢の「塩ちゃんこ」。すり鉢の中でたっぷりのごまを擦り、出汁と具を入れていただく。豚バラ肉や鶏肉、軟骨入り鶏つくねやたくさんの野菜から出る旨みがスープに凝縮され、たまらないおいしさに! 「塩だからさっぱりしていて、いくらでも食べられそう!」と興奮気味の武藤さん。きたろうさんも、「旨いねぇ〜」と唸りながら、「ごまが合う、ごま恐るべし!」と堪能した。
ご主人にとって、酒場とは、「人と人とがつながる場所。それが一番大事なこと」。人情で支え合う、温かい一軒なのである。