東京で秋田の郷土料理を堪能!
母と息子二人三脚で
人気酒場を作り上げた親子の物語
卵がぎっしり!「子持ちハタハタ焼き」
今宵の舞台は、東京都墨田区東向島。きたろうさんと武藤さんは、東武曳舟(ひきふね)駅から徒歩1分。秋田県の郷土料理が味わえる「秋田料理 酒呑童子」へ。創業33年目を迎えた店を切り盛りするのは、ご主人の坪井康之さん(56歳)と母のアキ子さん(83歳)。きたろうさんと武藤さんは、さっそく、焼酎ハイボールを注文して「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「秋田創作卵焼き八森焼」。母・アキ子さんの出身地が秋田県八森町(現在の八峰町)だそうで、「秋田のおいしいものを全部入れちゃおうと思って」とご主人。海藻のギバサ(アカモク)やじゅんさいを入れ、秋田県の伝統的な調味料しょっつる(魚醤)で味付け。きたろうさんは、一口食べて「旨いねぇ。優しい味だ!」と感激。武藤さんも「ふわっと軽くて、おいしい〜」と幸せそう。
秋田県出身の母と墨田区出身の父の間に、東京で生まれたご主人の康之さん。昔は「ヤンチャだった」そうで、「地元墨田区の暴走族の総長でした」と苦笑い。母親のアキ子さんは大変だったと振り返りながら、「でも、どうせやるんだったら大物になって、と言ったのよ」と笑う。常連さんの一人は、「大将は僕の兄貴の先輩で、兄貴たちは怖くてあんまりお店に行けなかった」というほど! そんなヤンチャな青春時代を過ごしたご主人は、中学卒業後、いくつかの職業を経験した後、一念発起し、24歳で地元東向島で自分の城を構えたのだ。
ところで、店名の由来は、単独世界一周のヨットレースに出場したヨットマン・斎藤実さんの「酒呑童子Ⅱ」号がかっこよかったからだとか。「開業後、斎藤実さんご本人が来店されて、嬉しかったです!」と、少年のような笑顔を見せるご主人だ。
次にいただくのは、秋田から直送される貴重なメスのハタハタを焼き上げた「子持ちハタハタ焼」。お腹には卵がたっぷりで、「頭と尻尾を持って、まず卵の部分をガブッといくのが一番おいしい」とのこと。卵の多さに驚くばかりのきたろうさん! 武藤さんも「卵が大きくて、ぎっしり! プチプチしておいしい」と興奮気味だ。
続いて登場したのは、甘めに味付けしたポテトに「いぶりがっこ」を刻んで混ぜた「秋田のポテサラ」。武藤さんは、「普通のポテサラと思って食べたらびっくり! コリコリした歯応えがいいですね。お酒に合う!」と箸が止まらない!
〆には名物「きりたんぽ鍋」を!
開業時、「自分は料理修業をしていなかったので、料理のできる仲間たちを巻き込んで、いろんな料理を出す居酒屋にしたんです」とご主人。ジャンルにこだわらない様々な料理を提供する店として、順風満帆なスタートを切ったというが、「3年目くらいで急降下。まわりは何かに特化したお店が増えていた」そうで、店を再建するべく秋田料理を中心とした店に転向。秋田出身の母親を呼び寄せたのだ。それ以降、店は再び活気を取り戻し、同時にそれまで料理をしてこなかったご主人も母親から学びながら少しずつ腕を磨いた。アキ子さんは「うれしかったですね。自分としては家にいるよりお店に来た方が幸せ」と充実した様子で、「店で働くのが生きがいになってるんですよ」という康之さんの言葉に笑顔で頷いた。
ここで登場したのは、3種類のモツを使った「名物たれホルモン」! ピリっと甘辛いタレが食欲をそそる「汁のない煮込み」だ。武藤さんは、「モツの部位によって旨みが変わって、おいしい」と喜び、きたろうさんは「これでチューハイ3杯はいける……」と喉を鳴らした。
親子で店をやっていく中で、やはり親子喧嘩は避けられないようで、アキ子さんは「よく怒られてますよ」と笑い、康之さんも「しょっちゅうです。カウンターが劇場になって、お客さんがそれを見に来てますから!」。そんな親子の店に集う常連さんたちは年齢も性別も様々。「一人で飲みに来ても絶対話しかけてくれるし、寂しくない。カウンターに座ったら、みんなお友達みたいな感じがいい」と話す30代の女性客や、「料理も雰囲気もすごくいい。ママの大ファンです」というロシア人女性も! さらに、「コロナ禍で大変だった時、大将が旗振って曳舟の街全体を盛り上げてくれた」と感謝の言葉も聞こえ、「それは暴走族で培ったたまものだね」とツッコむきたろうさん。親子の明るい人柄と丁寧な接客で多くのお客さんに愛される人気酒場となっているのだ。
「母がいなければ成り立たなかった」と感謝の想いを滲ませつつも、それを言葉で伝えることには照れるご主人。アキ子さんは、「優しいところは出さないんですよ。心で思っててもね。でも優しさは感じますよ。ヤンチャしてた頃とは目が全然違います」と母親の愛があふれた。
最後の〆は、秋田名物「きりたんぽ鍋」。比内地鶏の特製出汁に、鶏肉やキノコ、野菜などの具材から出る旨みもたっぷり! その出汁を吸ったきりたんぽは、たまらないおいしさで、しばし言葉を忘れて堪能するふたりだった。
ご主人にとって、酒場とは「コミュニティが広がる場所」。初めて来たお客さんもすぐに打ち解けられる下町の雰囲気が最高の一軒である。