東京都中央区築地で創業20年!
亡き母の夢を受け継ぎ
人気大衆酒場の暖簾を守る男の物語
亡き母の味を受け継いだ「牛もつ煮込み」
今宵の舞台は、東京都中央区築地。きたろうさんと武藤さんが向かったのは、東京メトロ有楽町線・新富町駅から徒歩2分。オフィスビルの地下に店を構える「一枠(いちわく)」。ご主人の白石修世(しゅうせい)さん(40歳)が、店をひとりで切り盛りしている。温かみのある昭和レトロな雰囲気の店内に、「大衆酒場という感じが、実にいいよ」とゴキゲンなきたろうさん。さっそく、ふたりは、焼酎ハイボールを注文して、常連さんたちと一緒に「今宵に乾杯!」。
壁一面にズラリと貼られたメニューは、お客さんの手書きだそうで、中でもひときわ目立つ「牛もつ煮込み」が最初のおすすめ。シロ(小腸)とフワ(肺)の2種類のモツを使った味噌ベースの煮込みに、「あ〜、旨いっ!」と舌つづみを打つきたろうさん。ご主人おすすめのガーリックトーストとの相性も抜群で、武藤さんも、「おいしい! 甘すぎず辛すぎず、ちょうどいい」と目を細めた。
店は創業20年。「最初は、おふくろと兄貴と3人で始めたのですが、オープンからちょうど一か月で母が倒れて、そのまま他界してしまい……」とご主人。その後3年間は兄と2人で経営し、ご主人がひとりで切り盛りするようになって17年だという。「もともとの家業は床屋なんですが、お袋は息子たちと一緒に飲食店をやるのが夢だったみたいで。僕が20歳の時に3人で開業しました。父は、床屋を続けながら応援してくれましたね」。
築地で生まれ育ち、高校中退後アルバイト生活を送っていたご主人は、母と兄とともに平成16年に「一枠」を開業。しかし、その1か月後、母・明美さんは病に倒れ51歳という若さで帰らぬ人となったのだ。「亡くなった当初は本当につらかった……。チャキチャキの江戸っ子で、お祭り好きな人でした」。明美さんは、自慢のもつ煮を地元のお祭りでよく振舞っていたそうで、「一枠」の「牛もつ煮込み」は母の味を受け継いでいるのだ。
次のおすすめは、下町名物「レバカツ」。高温の油でカラっと揚げたサクサク食感のレバカツは、お酒のおつまみにぴったり! 「大衆的な味だけど、旨い!」と唸るきたろうさん。武藤さんも「薄いけどパサパサしてないし、食べやすい」と気に入った様子だ!
様々な味と食感が口の中で爆発!? 「一枠ばくだん」
続いては登場したのは、「一枠ばくだん」。お椀の中には、マグロ赤身、納豆、たくあん、揚げ玉、しそ、ねぎがたっぷり! よく混ぜて海苔で巻いていただけば、「食感も楽しいし、さっぱりした感じが女性好み。幸せな気持ちになる」と武藤さん。きたろうさんも、「たくあんの歯応えが利いてる。口の中がバーンって感じだ(笑)」。
店名について伺うと、「競馬好きの親父がつけてくれました。競馬では、1枠にエントリーした騎手は白い帽子を着用するんです。苗字の「白石」と、もつ煮に使う「シロ(小腸)」に絡めて、白つながりです」とのこと。お客さんは、地元の方も多いそうで、この日来店していた常連さんたちはご主人の同級生。みなさん、「何食べてもおいしい!」「ハズれなし!」と口を揃え、「実家に帰ってきたみたいに居心地がいい」と店の魅力を語る。
料理修業はしていないというご主人だが、独学で料理を学び、お客さんの舌を唸らせているのだ。さらに、ご主人は、母・明美さんと同じく祭り好きだそうで、「神輿を担がせたらカッコいい」とか! 毎年6月に開催される「つきじ獅子祭」では陣頭指揮をとっているそうだ。
今ではすっかり人気酒場となった「一枠」だが、一時はお客さんの入りが思わしくなく、店をたたもうと考えたことがあったという。「その時は、10周年までやったら、もう店をやめようと思って。大家さんにも伝えてたんです。でもそうやって肩の力が抜けると、なんだか自然とお客さんが入るようになって。あと3ヵ月のところで閉店をとりやめました。天国のおふくろが何かしてくれたのかも」とご主人。「お母さん、この店にいつもいるんだね」というきたろうさんの言葉に、ご主人も「死んでからの方が見られている気がする(笑)。喜んでくれてるといいですが。会いたいですね」と思いを馳せた。
続いていただくのは、「きのことタコのアヒージョ」。タコやエリンギなどの具材がゴロゴロと入り、オリーブオイルがその旨みを引き立てる。酒場らしからぬおしゃれな一皿に、きたろうさんは「旨いね〜」と感心しきりで、武藤さんも箸が止まらない!
そして最後の〆は、「タレ飯」。最初にいただいた「牛もつ煮込み」のタレをアツアツご飯にかけた一品で、常連さんリクエストで生まれた一品だそう。「お酒に合うと思ってましたが、ご飯にもこんなに合う!」とふたりは夢中で食べ尽くした。
店をやる上で大切にしているのは、「自分も楽しむこと。自分が楽しくないとお客さんも楽しめない。辛いことでも自分にとってプラスになると考えれば楽しく思える」とご主人。「酒場とは、人を繋いで笑顔にさせる場所。疲れている人も多いから、そういう人たちのちょっとした安らぎになれたらいいですね!」と言ってほほ笑んだ。