東京都台東区浅草橋で創業18年目
様々な職業を経て50歳で酒場を開業!
二人三脚で支え合う夫婦の人生物語
刺身用の新鮮なアジで作る「アジフライ」
今宵の舞台は、東京都台東区浅草橋。きたろうさんと武藤さんが向かったのは、JR浅草橋駅西口から徒歩10分、「おかず横丁」(鳥越本通り商盛会)に店を構える人気酒場「鳥越 まめぞ」だ。アットホームな雰囲気の店内で、ご主人の中尾久泰さん(67歳)と妻の早苗さん(62歳)に迎えられ、ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、毎朝仕入れる刺身用のアジで作る「アジフライ」。「まずは何もつけずに」と勧められて、そのまま食せば、自然な塩味とアジの旨みが口に広がる。「うちでは味付けしてないので、これはアジ本来の塩味。海の塩ってことですね」とご主人。武藤さんは、「これで十分ですね! サクサクで重くないし、おいしい〜!」と感激だ。
店は創業18年目だが、ご主人が開業するまでには長い道のりがあったとか。墨田区向島で生まれ育ったご主人は、大学卒業後、家業の古物商を手伝うが、35歳で独立し、学生服を販売する会社を設立。同時に、交際していた早苗さんと結婚した。当初、会社は順調だったが、設立から8年後、少子化の影響もあり制服会社を畳むことに。そして心機一転、43歳で仕出し弁当専門店を開業したという。
しかし、こちらの弁当店も思うように売り上げが伸びず、5年後に閉店。そんな時、保険組合で事務の仕事をしていた妻・早苗さんからある一言が……。「『あんた、ブラブラしてないで、ちゃんと働きなさいよ!』って言われたんだよ」とご主人。早苗さんは、「この先、また違うことされてはかなわない。定年のない仕事に就かせようと思って」と苦笑い。ご主人は、平成19年、50歳で「まめぞ」を開業したのだ。
続いていただくのは、「自家製明太子かす漬け」。酒粕と味噌、みりんを練り上げた餡を明太子に塗り、約10分焼き上げる。きたろうさんは、「いやぁ、美味だな〜」と唸りながら、「これは焼酎にあう。微妙な甘みが出るんだね」と舌つづみ!
店名の「まめぞ」は、江戸の古語「まめぞう(芸人)」とフランス語「マ・メゾン(自宅)」が由来だとか。店のある「おかず横丁」は、かつて町工場が集まる地域で料理の手間が省ける惣菜店が軒を連ねていたことから名付けられたそうだが、今は高齢化で以前より人通りは少ない。それでも開業当初からお客さんの入りが良かったのは、「強力な助っ人がいたから」と女将。カンターに座る常連客のひとり、寺田輝明さん(66歳)が、町会や祭り仲間をたくさん連れてきてくれたという。「美味しいし、値段も高くない。友達と一緒に飲みに来れると思ってね。ここに来ると自分の家のよう」と寺田さん。他の常連さんも「ご主人と女将は、二人で一つみたいな感じ。アットホームで料理もおいしい」と店の魅力を語ってくれた。
シンプルだけど贅沢! 名物「カツサンド」
「“ニコイチ”なんです。半人前同士なんで、ふたり合わせて一人前(笑)」と口を揃えるご主人と女将。そんな2人の出会いは33年前。お互い地元が一緒だったこともあり、飲食店で偶然知り合い、意気投合。大将は早苗さんの「さっぱりした気風のよい性格に惚れた」と言い、女将は、「飲んでいても真面目なところがよかった」と、1年間の交際を経て結婚。以来、早苗さんは、様々な職を転々とするご主人を支え続けてきたのだ。
ここで、登場したのは、「メガえびフライ」! 驚きのメガサイズのエビフライに思わず歓声を上げ、「写真撮りたくなる!」と興奮気味の武藤さん。揚げたてアツアツをいただいて、「プリップリで海老がぎゅっと詰まってて、おいしい〜!」と目を細めた。
次は、少し軽めのおつまみ「自家製みそクリームチーズ」を! 味噌床に漬けたクリームチーズはほどよく水分が抜け、「チーズじゃなくなってるね! おもしろい」ときたろうさん。武藤さんは、「お酒とよく合いますね〜」とチューハイをゴクゴク!
「おいしいものを食べると自然に笑顔になるし、そういうお客さんの反応がうれしくて、やりがいがあります」とご主人。女将は、「料理屋さんは不誠実をすると短命に終わっちゃう。“商い”は、自分たちも“飽きない”し、お客さんも“飽きさせない”ことが大事」と話すのだった。
最後の〆は、名物の「カツサンド」。弁当店の頃から作っていたというボリューム満点の一品に、「シンプルだけど、こんな贅沢なカツサンドはないよ!」と、大興奮のきたろうさん。オリジナルソースが味の決め手で、「お肉が柔らかくてジューシー。ソースが滲みこんでいておいしい〜! 幸せ!」と武藤さんも大喜びだ。
おふたりに、「今だから言いたいこと」を尋ねてみると、「やっぱりありがとう言いたい」と感謝の気持ちをストレートに言葉にするご主人。早苗さんも、「ちょっとでも長く店を続けていけるように体調管理をお願いしたいですね」とご主人を思いやった。
ご主人にとって酒場とは「安らぎの場所」。女将は「発見の場所。自分たち以外のものを見つけに行くところ」と言って、きたろうさんは、「かっこいいね! そのとおりだね」と満足げに頷いた。