東京都品川区大井町で創業49年
明るい人柄のご主人とベテラン料理人
老舗酒場の暖簾を守り続ける男たち!
絶品! 脂ののった「本マグロのトロカマ焼き」
きたろうさんと武藤さんがやって来たのは、東京都品川区大井町。今宵の酒場は、大井町駅から徒歩2分、昭和51年創業の「野焼(のやき)」だ。店を切り盛りするのは、ご主人の辻光雄さん(75歳)。昭和にタイムスリップしたような雰囲気の店内で、ふたりはさっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、一日2食限定の「本マグロのトロカマ焼き」。「めちゃめちゃ脂のってますよ!」とご主人も胸を張る一品だ。武藤さんは「お箸入れただけで脂が! それでいて重くない。おいしい!」と感激。きたろうさんも「脂ののりがすごい! 焼いただけとは思えない旨さ」と大満足だ。
京都府亀岡市で生まれ育ったご主人。大学卒業後に上京し、食品メーカーに就職。27歳で酒場のチェーン店だった「野焼」の営業マンに転職し、29歳で大井町店の店長を任された。「当時、大井町店はずっと赤字で、閉店するかどうかの瀬戸際。仕方なしに建て直しに来たんですが、1年後には利益を出せるようになった。それで、もういいかなと思って辞めようとしたら、上司に店の買取を打診されて。借金して2,000万で買い取ったんです」
次のおすすめは、鳥取県産の大山鶏を使った焼き鳥「ねぎま」と「砂肝」を塩で。「砂肝」を食べたきたろうさんは「旨い! 噛めば噛むほど旨いね」と大喜び。続いて「ねぎま」をいただいた武藤さんも「すごくジューシーで柔らかい!!」と頬が落ちそう。「ねぎま」のもも肉はとり皮で包んで焼き上げるのが野焼流。「ウチのねぎまを食べたら、他のが食べられなくなる」と自信たっぷりのご主人だ。
常連さんに話を伺うと、「ご飯がおいしいのはもちろん、温かい雰囲気で心地いい」という声が聞かれ、「ご主人は仕事漬け。この仕事が好きだからやってるんですよ」と話す45年来の常連さんも! ご主人は「まさかこんなに長くやるとは思わなかったですが、継続は力。感謝を忘れない!」と語りだし、先ほどの常連さんは、「ちょっと営業トークがうるさいけど(笑)、それさえ考えなければのんびりと飲める!」とまとめてくれた。
ここで名物「インディアンポテト」が登場! 豚肉、キャベツ、ジャガイモなどをカレー粉で炒めた一品は、ピリ辛の味付けが食欲をそそり、「ポテトがほくほく! お酒にもご飯にも合う味付けですね」と箸が止まらない武藤さんだ。
大山鶏の出汁が自慢!「とり雑炊」
昭和54年、30歳で店を買い取り、オーナーとなったご主人だが、「料理は全くできないし、厨房に入ったこともない」という。「それで酒場できるの!?」と驚く武藤さんに、「ホールでの対応力や営業力があればできると思う。だけど難しい。料理人がいなければできないからね」と話し、板前探しに苦労してきたという。「何十人と変わりました。私が厳しいから料理人が続かない。でも今の店長が来てくれて30年。うちは榎又店長でもってます!」
店長の榎又清次さん(74歳)は、「私は大阪で修業したんですが、焼き鳥を勉強しにこの店に来て、社長とはもう長い付き合い」と話す。その溌剌とした表情と雰囲気に、「なんかカッコいいね! ドラマに出てきそう!」ときたろうさん。榎又さんは、「いやいや、ただひたすら一生懸命ですよ」と笑うが、ご主人は「店長がいたからここまでやって来られた。店長は忍耐強くて、料理が好きだから」と感謝する。榎又さんは「そう言われるとうれしいよね」と喜び、「社長は商売に徹して、すべての面で徹底してる。尊敬してます」と互いに信頼しあうのだった。榎又さんの料理のこだわりは、「心を込めること。愛情。お客さんの『美味しい』の一言が励みになります!」。営業力抜群のご主人と、ベテラン料理人の最強タッグである。
続いては、そんな榎又さんの自信作「生いわし梅天ぷら」を! 新鮮ないわしに梅肉を挟みカラッと揚げた天ぷらに、「贅沢だな〜」ときたろうさん。武藤さんも「いわしと梅のさっぱり感が合いますね〜」とうっとりだ。
現在再開発が進む大井町駅周辺。変わりゆく街の片隅で、創業から49年となる「野焼」だが、実は5年前、存続の危機に陥ったという。2020年に榎又さんが糖尿病で入院し、左足を切断することになったのだ。「店長あっての店ですからね。私も頭が真っ白になって……」。店を閉めることも考えたというご主人だが、「病院で店長が店の話ばっかりしていて。これはやるしかない!と決断しました。50周年がまず目標。55年、60年と続けていければ」。手術後、7カ月のリハビリを乗り越え復帰を果たした榎又さん。ご主人の明るい人柄と、榎又さんの作る料理の美味しさで、老舗酒場の歴史は続いているのだ。
最後の〆は、「とり雑炊」。大山鶏の出汁が自慢の一品に、「鶏の旨みがすごい! 優しい味なのに旨みがガツン! おいしいですね〜」と感激するばかりのふたりだった。
榎又さんにとって、酒場とは「安らぎの場所」。ご主人にとっては、「社会に貢献する場所。居酒屋がなかったら、社会はうまく回らない。本当に大事な場所です」。信頼し、支え合うふたりが守り続ける、居心地の良い老舗酒場である。