東京都北区十条で創業26年!
脱サラし45歳で酒場の世界へ
夫婦で営む癒しの酒場
名物「おでん」のイチ押しは「白子」!
きたろうさんと武藤さんがやって来たのは、東京都北区十条。再開発がほぼ完了したJR埼京線十条駅西口から徒歩1分、「居食処 氣楽」が今宵の酒場だ。ご主人の武本高一さん(72歳)と妻の智子さん(72歳)に迎えられ、ふたりはさっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「刺身四点盛り」。この日は、中トロ、〆サバ、数の子、ウニという豪華な内容で、「酒場でウニ!?」と驚く武藤さん。「サバは無菌の養殖もの。根室産のウニもおいしいですよ!」と胸を張るご主人の言葉どおり、ウニは絶品! 〆サバも中トロもたっぷりと脂がのって、ふたりの「おいしい」が止まらない!
店は創業26年。ご主人が45歳の時に妻・智子さんとふたりで開業した。大学卒業後、家業の空調設備会社で働いていたご主人は、30歳で商社の営業マンに転職するが、14年後、突然退職してしまう。すると智子さんが酒場の開業を提案したそうで、ふたりで第二の人生を歩み始めたのだ。「開業後3か月くらい、主人は恥ずかしがってお客さんの前に出られなくて。意外と人見知りなんです」と、智子さん。ニコニコと饒舌な現在のご主人からは想像もつかないが、26年の月日がご主人を変えたようだ。
さて、ここで店の名物「おでん」が登場! 酒場を開業するまで料理経験が全くなかったご主人が、「作るのが簡単」という理由で始めたというが、すぐにその奥深さに気づき、その後は日々試行錯誤をくりかえして、今では店の名物に! まずはご主人イチ押しの珍しい「白子」をいただいて「これはすごい。出汁の味がしっかり滲みてる」ときたろうさん。武藤さんも「とろっとろ! 白子はポン酢でよく食べますが、おでんの出汁にすごく合うんですね〜」と目を細めた。
続いて、きたろうさんは、鯛のすり身を詰めた「椎茸」と定番の「大根」、武藤さんは、タコを紅生姜で包んだ「蛸紅生姜」と「牡蠣」を。「椎茸、旨いんだよ! 大根は出汁が滲みてるなぁ……」と喉を鳴らすきたろうさん。武藤さんも、牡蠣をつるんっと飲み込んで、「おいしい! お出汁とよく合う」と感激し、ご主人考案の「蛸紅生姜」にかぶりついて、「おっきいタコが入ってる!」と目を輝かせた。そんな「おでん」はテイクアウトも可とのことだ。(※おでんテイクアウト17:00〜 具材がなくなり次第終了)
〆は女将手作りのトロトロ「牛すじカレー」
ところで、ご主人と妻の智子さんは19歳の時に千葉県御宿(おんじゅく)の海水浴場で出会い、5年後に結婚した。ご主人は、智子さんの「おっかないところ」に惹かれたと言い、「彼女の“てやんでぇ”って感じにやられた」と笑う。実家は料理屋さんだったという智子さんは、自身も料理好き。ご主人曰く、「彼女は舌が敏感。味見も全部、彼女です」とのことで、揚げ物や焼き物は女将の担当。次のおすすめ「豚バラにんにく唐揚げ」も女将考案のオリジナル料理。にんにくを豚バラで巻いた唐揚げに、きたろうさんは、「食べたことない! インパクトあるね」と感心し、武藤さんは「ニンニクがほくほく。元気が出そう!」と箸が止まらない。二人が作る料理のこだわりは「国産素材」。「腕は二の次。素材が第一!」と口を揃える夫婦だった。
ここで「漬物盛り合わせ」で箸休め。 26年物の糠床で1日半漬け込んだ自家製漬物は、揚げ物の後にぴったり。さっぱりといただいた後は、またまたチューハイが進むというものだ。
開業当初はお客さん入りも悪く、「やっていける自信もなかった」というご主人。それでも、地元の人たちが応援してくれたそうで、「お客さんあっての商売。お客さんに守られてるんです」と感謝する。ある常連さんは、「僕が仕事を辞めてしまったとき、皿洗いをしてご飯を食べさせてもらった」と思い出を語り、「家庭的なところがお店の魅力。気遣いができるママと、楽しいマスターの『氣楽』です」と話してくれた。きたろうさんは、「大将、女将さんに感謝してる?」と聞くと、ご主人は、「日々感謝! いつも言ってます!」。女将は「聞いたことない」と笑いながら、「でも、言いたいことは溜め込まず、吐き出す」と、夫婦仲の秘訣を語った。
そんな明るい夫婦だが、昨年8月、ご主人に悪性腫瘍が見つかり、がんの宣告を受けたという。手術も決まり入院もしたが、なんと、信じられないような奇跡が! 医師から「退院していい。がんがない」と言われたというのだ。ご主人は、「がんが消えちゃったんだよ」と笑い、智子さんも、「おかげで健康には気を遣うようになりました」と晴れやかな表情を浮かべた。
最後の〆は、女将手作りの「牛すじカレー」。「懐かしいお母さんのカレーだなぁ」と、しみじみ味わうきたろうさん。武藤さんも「牛すじトロトロ〜。やわらか〜い」と頬が落ちそうだ。
「店は私たちで終わりにするつもりですが、子供や孫もみんな十条に住んでます」と幸せそうな女将。ご主人も、「部屋は6畳だけど、十条に住んでる」とダジャレを言ってご満悦! 女将にとって、「酒場とは癒しの場所」。ご主人は「お客さんの悩みを聞いてあげる場所」とのこと。きたろうさんは、「カウンセリングの場所ってことだね」と納得し、すっかり癒されるのだった。