東京都江東区門前仲町で創業19年
二代目を継いだご主人が
母親と守り続ける人気酒場の暖簾
食べ応えがすごい! 鮮度抜群「刺身盛り合わせ」
今宵の舞台は、東京都江東区門前仲町。下町情緒あふれる街で、きたろうさんと武藤さんが訪れたのは、門前仲町駅から徒歩20秒、新鮮な魚介と様々な創作料理が楽しめる「たつや」。二代目主人の佐藤猛(たか)さん(35歳)が厨房で腕を振るい、初代女将の母・広美さん(57歳)が店を切り盛りしている。黒を基調とした落ち着いた店内で、きたろうさんと武藤さんは、さっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、看板メニューの「刺身四点盛り合わせ」。市場で40年働く父・竜也さん(57歳)の目利きで仕入れた鮮魚を猛さんが店内で捌く。この日は、シマアジ、鯛の焼き霜、カンパチ、マグロ。どれも分厚く切られ、食べ応え十分! 豪華な盛合せに「これはテンションあがる!」と瞳を輝かせながら、「口の中が幸せ」とうっとりする武藤さん。「歯応えもしっかりあって、旨っ!」ときたろうさんも感激するばかりだ。
女将の広美さんは、中国黒竜江省の出身。18歳の時に、旅行で中国を訪れていた竜也さんと出会って意気投合し、交際を始めて半年後にスピード結婚した。広美さんは、「飲食業が好きで、どうしても自分の店を持ちたかった」そうで、平成17年、夫の竜也さんと共に「たつや」を開業したのだ。しかし、当時中学生だった息子の猛さんは、「最初は酒場の素人軍団だったので、子供ながらにパッとしない店だなと思っていた(笑)」とか!
高校時代は店を継ぐつもりなどなかったというが、大学に入り店を手伝うようになると、今でも師と仰ぐ料理人の田中さんとの出会いが人生を変えたという。「お師匠さんが『たつや』に来てから、料理全体がピリっと締まり、店の雰囲気が変わって常連さんも増えだしたんです」。大学卒業後、「たつや」で働くかどうか迷っていた猛さんの背中を押したのは、一人の常連さんだったそうで、「この師匠から料理を学びなさい。将来、絶対、役に立つから」と言われ、決心。師匠ともに7年間働き、二代目を継いだのだ。
続いてのおすすめは、師匠直伝の大人気メニュー「豚の角煮」。5時間煮込んだ角煮は、「柔らかくてほろほろで飲めるくらい(笑)。 味付けも甘すぎず、辛すぎず、バランスが完璧!」と武藤さん。ご主人も、「酒場の定番ですが、酒場の良さが出る料理ですね」と胸を張った。
きたろうさんが名付けた新メニュー「夕焼けサカナ」
広美さんは、「息子は小さい頃から真面目で頑張り屋。店を継いでくれて、すごく嬉しかった。親子で頑張っていこうと思いました」と話す。武藤さんが、「お父さんも一緒に3人でやるという案はなかったんですか?」と尋ねると、猛さんが「それぞれ役割があって、僕は料理、母は経理やホール担当、父は仕入れなので、みんなでやっているようなもの。ただ3人揃って店に出るとなったら、たぶん大喧嘩ですね! 意見が合わない」と笑う。そんな「たつや」に開業当初から通う常連さんは、「最初はお客さんがいなくて大丈夫かなと思う時期もありましたが、今では予約しないと入れないほど。二代目はこの仕事に命かけてるくらい頑張ってる。尊敬しますね」と、温かい目で店の歴史を見守り続けている。
さて、ここで登場したのは、「ちくわの明石揚げ」。見た目はタコ焼きのようだが、ちくわにタコを詰めて天ぷらにした人気のおつまみ。「酒場ではスピードも求められる。提供の早さも重視してます」とのことで、きたろうさんは、「素晴らしい発想! 食べやすくて旨い」と箸が止まらない!
多くの常連客から愛される二代目主人の猛さんには、今でも心がけている師匠からの教えがある。「『カウンターの板には一本の川が流れていると思え。お客様と僕たちはそれくらい立場が違うから、馴れ合いにならず、お客さんを一番に考えろ』と言われた。だから、お客さんに食べ方を押し付けたりしないし、お客さんが好きなように食べて喜んでくれれば、それだけでいいんです」
そんな猛さんは、常連さんが飽きることがないようにと、毎月必ず新メニューを作るそうで、次にいただくのは、その新作。「まだ料理名がないので、きたろうさん、付けていただけますか?」とご主人。出てきたのは、白身魚の唐揚げに鰹出汁の餡をかけ、生卵を乗せた一皿だ。早速、いただいたきたろうさん、「見事だね、これは!」と感心し、武藤さんも「魚がふわふわ。餡がおいしい〜」とうっとり。そして、きたろうさんがつけた料理名は、「夕焼けサカナ」! 武藤さんは値付けを任されて、「『ムトウ』だから、610円で(笑)」と決定だ!
最後の〆は、「海老さんまい鍋」。土鍋の蓋を取ると、ぎっしりとならんだ海老に、思わず歓声を上げるふたり。たっぷりの海老と白菜・しめじを海老の殻からとった海老味噌出汁で煮込んであり、「海老をすごく感じるし、野菜の旨みもしっかり出てて、おいし〜」と、ため息まじりに目を細める武藤さんだった。
そして、「ご主人にとって酒場とは?」の質問に、「故郷」と答える猛さん。そのシンプルな一言に、「いいじゃないか〜!」と、きたろうさんは、ニコニコと大きく頷いた。