様々な苦労を乗り越え
56歳で酒場を開業した女将
娘と共に作り上げた人気酒場!
意外なおいしさ!「鶏つくね生ピーマン」
きたろうさんと武藤さんがやって来たのは、東京都江戸川区船堀。今宵の酒場は、都営新宿線・船堀駅南口から徒歩1分、創業26年目を迎えた「春菜」だ。店を切り盛りするのは、女将の石井田鶴子(たづこ)さん(81歳)と娘の髙水友江さん(54歳)。季節の花々を飾ったL字カウンターのある店内で、ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールで、「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、「鶏つくね生ピーマン」。手作りつくねを生ピーマンに乗せ、特製味噌をつけていただく。「生ピーマン!?」と言いながら食べたきたろうさん、「なるほど、合うんだ! さっぱりしてる!」と感心し、武藤さんも「おいしい〜。苦みもほとんどない」と舌つづみ! 豆板醤やコチュジャンなどを加えて作り上げた特製味噌も相性抜群だ。
墨田区業平(なりひら)で生まれ育ち、高校卒業後は都内の設計事務所で働いていたという女将の田鶴子さん。27歳で結婚し、実業家の夫の会社で経理を担当。仕出し弁当店や寿司店を始め5つもの事業を展開していたという。「朝4時からお弁当屋さん、終わるとすぐに寿司屋がオープンして翌朝4時まで。24時間、会社が動いているという感じでした」。そんな日々を過ごしていた女将だが、「私は事務やお金のやりくりに奔走しているのに、主人は仕事よりも遊びに行く方が多かった」そうで、結婚から30年後、夫の散財が理由で会社は火の車に。「この人と一緒にいたら一生辛い思いをする」と離婚を決めた田鶴子さんは、56歳で酒場を開業し、第二の人生をスタートさせたのだ。
そんな女将を支え、開業から店を手伝ったのが、娘の友江さんだ。「母が離婚してひとりになってしまったので、私が手伝えるなら」と母と共に働きはじめた。開業当時、すでに結婚して子育ての真っ最中だったが、友江さんの夫も協力的にサポート。女将は、「この子には本当に頭が上がらないし、お婿さんにも迷惑をかけた」と感謝するばかりである。
続いていただくのは、「鯵なめろう」。今では、店で提供するすべての料理を任されるようになった友江さんが、丁寧に作る一品に「いい味だねぇ〜」と感心するきたろうさん。武藤さんも「お味噌の味がおいしい! 薬味も利いててさっぱりしてる」と大満足だ。
そして、次に登場したのは、まぐろを漬けダレで和えたハワイ料理「まぐろとアボカドのポケ」。「ハワイで食べたのがおいしくて、サラダ風に仕立てました」と友江さん。武藤さんは、「タレにほんのりわさびが入ってて、おいしい! アボカドとまぐろがすごく合う!」と舌つづみ!
25年継ぎ足しのタレを使った「銀鱈の煮付け」
開業当時は寿司がメインの酒場だったという「春菜」。「昔はカウンターにガラスケースがあって、ネタが並んでたんですよ」と常連さんのひとりが教えてくれる。「でも、その後、回転寿司が周辺にいっぱいできて、お客さんをみんなとられて……」と女将。そのため、寿司から創作料理中心の酒場に方向転換した。
直後は売上が減り、「最悪の場合は辞めるしかないと覚悟した」と言う。それでも、「応援してくださるお客さんがいて、すごく心強かった。それに、コロナ禍でも常連さんが毎日来てくれて、本当にうれしかったし、感謝、感謝です」。きたろうさんは、「いいお客さんに恵まれたね」と感激し、常連さんたちは、「気を遣わず居心地がいいお店」、「お客さんも魅力的で、いろんな職種の人たちと話せる」、「常に違う創作料理が食べられるのもうれしい」と口々にお店の魅力を語ってくれた。
ここで「銀鱈の煮付け」が登場! 脂ののった銀鱈は煮付けにぴったり! 25年継ぎ足されてきた煮汁で煮込むそうで、「味つけが実にいいねぇ」と唸るきたろうさん。「しっかり味がついてるけど、濃いわけじゃない」と武藤さんも箸が止まらない。
ところで、メニューを考えるのは、友江さんと厨房で働くもうひとりの女性! 開業7年後から働き始めたのが、女将の妹・裕子さん(69歳)だ。「小さい頃から姉にはいろんなものを教えてもらったの。初めてエビマカロニグラタンというのを食べさせてもらったのも姉です」と楽しそうに笑う裕子さんを見て、きたろうさんは、「この3人でやってりゃ、お店は完璧だね!!」と太鼓判を押した。
お店をやる上で大切にしているのは、「思いやり。お客さんを大事にすることですね」と女将。「お客さんが顔を見せてくれると、ほっとして、うれしい。常連さんたちと一緒に旅行するのも、とても楽しい!」と笑顔を輝かせ、きたろうさんは、「酒場っていうのは、儲けるとかそういうのとはまた違う交流があるんだよね」と深く頷いた。
最後の〆は、「納豆チャーハン」! 「初めてだ」と言いながら食べたきたろうさん、「旨い!」と感激し、武藤さんも「ネバネバ感はなくて、納豆の香りと味はしっかり!」と堪能した。
酒場とは「憩いの場」という母と、「人を繋ぐ場所」という娘。「大変なことがいろいろあったので、自分に春が来るように。そして温かい雰囲気でみんなが笑顔になれるように」との願いを込めた店名どおりの、心温まる酒場である。