母娘で営む創業42年の老舗酒場
昭和、平成、令和にわたり
暖簾を守り続ける女将の物語
イカをまるごと使った絶品「イカポッポ」!
東京都江東区住吉にやってきた、きたろうさんと武藤さん。ふたりが向かった今宵の酒場は、住吉駅から徒歩9分。昭和57年創業の「居酒屋 万葉」だ。杉玉が掛けられた入り口には年季の入った暖簾が揺れ、老舗感が漂う。ワクワクしながら暖簾をくぐるふたりを明るい笑顔で出迎えてくれたのは、女将の皆川愛子さん(74歳)と娘の小高斉詠子(さえこ)さん(46歳)。きたろうさんと武藤さんは、さっそく、焼酎ハイボールを注文して、常連さんたちと「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、「なすとピーマンの味噌炒め」。甘めの味噌が、なすとピーマンによく合う! きたろうさんは、「簡単な料理なのに旨いよね」と感心し、武藤さんも「これは家庭では出せない味!」と大喜びだ。
新潟県加茂市で生まれ育った女将の愛子さんは、高校卒業後に上京し、看護師として働いていたという。27歳の時、酒屋の二代目の一男さんとお見合い結婚。3人の子宝にも恵まれた。専業主婦として子育てに励んでいた愛子さんだが、32歳の時に転機が訪れる。「主人がここの土地を借金して買ったんです。あの頃だから高かったと思います」。自らが営む酒屋に隣接する土地を購入したご主人は、「居酒屋をやろう。おまえが働くんだよ」と、昭和57年に酒場「万葉」を開業し、「まさか、自分が商売をするとは夢にも思いませんでした」という愛子さんは、32歳で居酒屋の女将となったのだ。
好景気の頃に開業し、お客さんの入りも桁違いだったという。「その頃はもう、しっちゃかめっちゃか(笑)。1年後に景気が悪くなるまではすごかった」と振り返る女将。土地を購入した借金返済のため、店で忙しく働く母親の姿に、当時3歳だった次女の斉詠子さんは、「寂しくて、ドアの隙間から母を覗いては、まだかまだかと待ってました」と当時の様子を話してくれた。
続いていただくのは、お店一番人気の「肉じゃが」! ゴロゴロと大きなじゃがいもは、ほくほくと柔らかく、中まで味がしっかり滲みて、これぞお袋の味! 「お出汁が利いてておいしい〜」、「じゃがいも好きにはたまんない!」と箸が止まらないふたりである。
さて、ここで、スルメイカを丸ごと一杯使った大人気メニュー「イカポッポ」が登場! 女将が北海道の函館で出会った一品だそうで、スルメイカを焼き、肝、白味噌、酒で味付けする。「イカが柔らかい! おいしい〜!」と感激する武藤さん。ワタごと使ったタレも絶品で、「お酒によく合う! 暑い日でも食欲が進みますね」とチューハイをグビグビ!
自家製だし醤油が味の決め手!「焼うどん」
店名の「万葉」は、約4500種の歌が収められた「万葉集」になぞらえ、多くの客が集まる店になるようにと命名したという。店の入り口にかかる暖簾は創業時からのもの。「継ぎはぎだらけだから、新調しようとしたら、お客さんが『このままの方がいい!』って」と、今も味わい深い風情を残している。これまで店を辞めようと思ったことはないという女将。「店が軌道に乗ったのは、ひとりになってから」だと言う。夫の一男さんが亡くなり(享年59)、「やらなくちゃ!」と腹をくくったそうで、「くよくよしてもしょうがない。明日があるさ、ケセラセラでやってきました」。
創業から42年。開業当初は板前を雇っていたそうだが、勤務態度に問題があり解雇。それ以来、女将が厨房に入り、今では約90種類にもなるメニューをひとりで調理している。「料理を作るのが好きなんですよ」とにこやかな女将に、きたろうさんは、「ダンナさんは、きっと、女将の料理が美味いことを分かってて、絶対酒場をやっていけると思ったんだろうね」と納得するばかりなのだった。
そして、そんな女将を支えてきたのが、約20年前から店を手伝う斉詠子さんだ。「母はタフで、本当に休まない。ケガで長期に休んでいても、すぐ復帰したがるから、もっと休むように言い聞かせています……」と、母親の健康を気遣いながら、母娘二人三脚で店を切り盛りしている。
さて、次のおすすめは、「ハムカツ」。揚げたてのハムカツにソースをたっぷりかけていただけば、どこか懐かしさを感じさせ、きたろうさんは、「料理に愛があるよ」とつぶやき、武藤さんも「サクサク! シンプルでおいしい!」と止まらない!
女将が店をやる上で大切にしているのは、お客さんを大切にすること。常連さんたちも、そんな女将の作る料理のおいしさを絶賛! 時にはレシピを教えてもらうこともあると感謝し、店の魅力は「ママ!」ともれなく口を揃えた。
最後の〆は「焼うどん」。豚バラ肉、人参、絹さや、キャベツと具沢山で食べ応えもたっぷり! 味の決め手は女将が手作りする自家製のだし醤油だそうで、「味付けが旨いよ〜」ときたろうさん。武藤さんは「調味料からこうやって手間をかけるとおいしいものができるんですね」と感心しきりであった。
女将にとって、酒場とは、「知らない人との輪が広がる場」。まだまだ新規の一見さんの輪も広がっていく、居心地のよい老舗酒場だ。