文京区江戸川橋、印刷関係の会社が多い神田川沿いにある酒場「いずみ」。赤提灯と縄のれんをくぐると、ご主人の小泉充男さんと二代目の敦史さんが厨房で腕を振るい、女将の和子さんが店を切り盛りする、懐かしい空気が漂う一軒だ。きたろうさんは「ちょっと濃いめでね」と頼んだ焼酎ハイボールを掲げて、いつものように常連さんと乾杯。最初の一品は、刺身で食べても美味しい新鮮なイワシで、梅肉を挟んで串焼きにした「イワシの梅肉はさみ串焼き」。表面をサッと炙る焼き加減に「うまい、うまい! ほとんどお刺身だよ」と、きたろうさん。梅肉の酸味がアクセントになり、さっぱりした口当たりもいい。
店の看板メニューの次は、5年の魚屋修業を経て店を継ぐ決心をした二代目がおすすめする「活ミル貝のお造り」。ミル貝を見て「見るからに旨いな」と洒落るきたろうさんを横目に、頬張った西島さんが「コリコリで甘い!」と感激の声。「今が旬だからね」というご主人が、誇らしげに笑う。
そんな素材の良さが光る一品以外に、時代に合わせたアイデア料理も多い。増えてきた女性客に向けて、二代目が作った「葉わさびチーズ豆腐」がそう。汲み上げ豆腐のようなチーズ豆腐を、クラッカーに乗せて食べるスタイルに「なんで酒場でクラッカー……」と言っていたきたろうさんが、一口食べて「これはどうやって作るの? 教えられないのぉ」と残念がる。「豆腐の感覚がほとんどないんだよ、チーズが強い」というきたろうさんに、「でもすごくサッパリしてる。あ、ちょっと辛いのは葉わさびですね」と西島さん。有楽町線の開通で人の流れが変わり、地の利に乏しいこの場所で、37年も愛さる理由のひとつは、この料理のうまさにあるに違いない。
25歳の時に安定したサラリーマンの職を捨て、料理の世界に飛び込んだご主人。29歳で女将の和子さんと結婚し、5年後にこの店を開いた。まだ子供だった二代目は「小さい頃から親父(の存在)を感じる事が少なかったんですよ。夜もいない、朝起きても寝てる。会う機会が無かったです」という。「それでなんで、こんないい感じに息子が育つの?」と、きたろうさんがご主人に訊くと、照れながら「お母さんのおかげかな」。「お母さんが偉かったんだぁ。女将!ご主人はどんな男なんですか?」と、今度は女将に訊くと「愚痴を言わない男ですね。愚痴を言わない代わりに、人の話も聞かないですけど」と笑う。そして女将は、お店を長く続けてこられた理由を語り始めた。「私、30年くらい前にね、たまたま本を読んだんです。そこに商いの心得として“お迎え三歩に見送り七歩”という言葉が書いてあったんですよ。お迎えする時は“いらっしゃいませ”でいいんですけど、お帰りになる時はね、しっかりお見送りしなさいって。そうやってお客さんを大切にしていれば、何とかなるって。その日その日、今日来られたお客さんを大事にする。明日来られたお客さんを大事にする。その継続で今がある。ですからね、あんまり主人の事を考えた事が無いの」と笑う女将。しかしその心がけこそが、なによりもご主人を助けたのだ。
最後の料理は、西島さんが店に入ってからずっと気になっていた「油淋鶏」をいただく事に。二代目が修業時代に教わったという油淋鶏は、鶏のもも肉を水で溶いた片栗粉にまぶし、180度の油でカラッと揚げ、自家製の香味だれをたっぷりかけたもの。大の好物で、一家言ある西島さんは「タレが美味しい! もっとタレがドロッとした店もあるんですけど、この店のタレはサラッとしてるから食べやすい。衣もザクザクのままで出してくれて私ごのみです!」と大絶賛。
そして、たっぷり食べて飲んだ大満足の2人がお店を出ると、女将が店の外までしっかりお見送りしてくれた。これがまさに見送り七歩。女将の屈託の無い笑顔に送り出されると、ちょっと足取りも軽くなる。そんな得難い酒場が「いずみ」なのだ。
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新鮮なイワシをサッと串焼きにした、この店の看板料理。イワシの梅肉はさみ串焼き680円(税別)
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魚屋で5年の修行を積んだ、二代目の目利きが光るお造り。活ミル貝のお造り980円(税別)
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一見すると豆腐。しかし味はクリームチーズのようで、葉わさびの辛みがアクセントに。女性に大人気の一品。葉わさびチーズ豆腐580円(税別)
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油淋鶏とは、揚げ鶏に甘い酢醤油のタレをかけた中国料理。ゴマ油、醤油、酢など6種類の調味料で作る、いずみの自家製香味だれが絶品。油淋鶏680円(税別)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都文京区水道2−4−4
03-3815-6594
月曜〜金曜17:00〜24:30
土曜17:00〜23:00
日曜・祝日
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