チェーン居酒屋やダイニングで埋め尽くされる学生街、早稲田。そんな町に、昭和元年から90年も続く名酒場「源兵衛」がある。厨房で腕を振るうのは御年77歳になる三代目・宮田正計さんと、四代目の彦一郎さん。そして三代目、四代目の女将、ミサさんと喜恵子さんが接客を担当している。カウンターとテーブル席の酒場に集うのは、大学の教授や関係者、今や社長や部長となったOBたち。そんな常連さんたちと、いつものように焼酎ハイボールで今宵に乾杯!
最初のおつまみは、毎日その日に出す分だけ、手作りしているという名物のシューマイ。朦々と湯気のたつセイロから、皿に盛られた大ぶりのシューマイにかぶりついた西島さん。「さっぱりした味ですね。重くなくって美味しいです。でも酒場にシュウマイがあるって珍しいですね」。
このシューマイは、ラーメンや焼きそばといった中華料理が好きな学生のために先代が考案し、以来70年受け継がれているという。「先代は厳しい方だったの?」と、きたろうさんが訊くと「ほとんど顔を合わせた事が無いです。ずっとどっかに飲みに行ってんだもんな。昔の男はよかったですよね。何やったって嫁さんが逃げていかないんだから(笑)」と三代目。そんな先代の後を受け、真面目な正計さんが三代目を継ぐのはごく自然な流れだったという。
次にいただいたのは、女将ご自慢のお新香。先々代、先代から受け継がれたぬか床で漬けたお新香に「キュウリの浅漬けがうまいね!」「みょうがもさっぱりしてておいしいですよ」と感心する2人。
そもそも女将は新潟出身。三代目が銀座の洋食店で修業している時に知り合い、老舗酒場へ嫁いできた。店に出て三日目にして客から“店を乗っ取ったな!”と言われるほどの馴染みようだったという。「女将は相当きれいだったはずだよ。いやいやいや、今じゃないよ」と、きたろうさんにからかわれ、照れるさまを見れば、女将が客から愛されるのもよく分かる。
三代目、女将ときて、次は四代目の自慢料理「いわしのさしみ」。寿司屋で5年修業したという四代目がさばいた新鮮なイワシのさしみと、カイワレ、大葉などが海苔で巻いてある一品。イワシの旨味と、野菜のシャキシャキ感が相まって、熱い夏にピッタリ。最後に“これだけは食べて帰って欲しいメニュー”をお願いすると「うちでは肉豆腐と言って売ってますけど、早い話、麻婆豆腐です」と三代目。見た目はあまり赤くない麻婆豆腐だが、一口食べると「これ、辛味が良く出てますよ」「山椒が効いてて、お酒にもご飯にも合いそう!」と、2人とも大満足。聞けばこの肉豆腐、麻婆豆腐という料理を誰も知らなかった頃からのメニューで、麻婆豆腐という名前が広く知られてからも「今更、名前を変えるのも……」と、肉豆腐の名前のまま出されているのだという。さすが昭和元年創業。知られざる料理史が、酒場のメニューに刻まれている。
かつて学生として店に通っていた若者が出世して、また店を訪れてくれるのが、なによりうれしいと言う三代目と女将。三代目は「その話を始めたら三日三晩かかりますよ」と笑う。店を長く続けるコツを聞くと「儲けるよりも食えればいいという考え」が大切だという。さらに「三代目にとって酒場とは何ですか?」と訊くと、「そこまで悟りを開いてませんから、もうちょっとやらせてください」と照れてみせる。そこには、早稲田を愛し、見守りたいという気持ちと期待がこめられているように思えた。
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鶏肉、豚肉、カニの身、干し貝柱などで作ったタネを使って、ひとつひとつ三代目が手作り。シューマイ(3ケ)350円(税込)
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先々代、先代の女将から受け継がれた80年物のぬか床を使用。これぞ歴史が生む味。お新香450円(税込)
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寿司屋で修業したという四代目の包丁も鮮やかな刺身。食べやすさもポイント。いわしのさしみ850円(税込)※その日の入荷によって魚は変わる。
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まだ、麻婆豆腐という名前さえ知られていなかった時代から、出されているという一品。肉豆腐700円(税込)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都新宿区西早稲田2−9−13
03-3232-6635
16:00〜24:00
3、13、23日
- ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。