東京江東区木場で創業25年!
地元の人々に愛されながら
人気酒場を作り上げた夫婦の物語
歯がなくても食べられる!? 「里芋の肉味噌がけ」
今宵の舞台は東京都江東区木場。きたろうさんと武藤さんが向かったのは、東西線木場駅から徒歩3分、まもなく創業26年目を迎える人気酒場「ふか川 一穂(いっすい)」。ご主人の大山敏博さん(76歳)と妻の清美さん(62歳)に迎えられ、ふたりはさっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、「里芋の肉味噌がけ」。新潟県五泉市から取り寄せる里芋は“歯がなくても食べられる”ほど柔らかくなめらか。自家製の肉味噌をつけていただけば、「合うねぇ〜」ときたろうさんは舌つづみを打つ。里芋のぬめりをとるために一度茹でこぼしてから、出汁で煮るそうで、「柔らかいけど、煮崩れしないんです!」と胸を張る女将である。
料理は主に女将が担当し、「大将はしゃべり担当!」とのことだが、実はご主人の家業は、同じ江東区にある明治27年創業の老舗寿司店「松葉鮨」。三代目を継いだ両親のもとに生まれた敏博さんは、料理の専門学校を卒業後、四代目として暖簾を受け継ぐため、家業の「松葉鮨」で寿司職人の道を歩み始めた。「修業は大変でしたよ。始めた途端、あの優しかったおじいちゃんに包丁の峰でひっぱたかれて。その時は悲しいというか、びっくりというかね……」と振り返る。そして「松葉鮨」の四代目として20年以上にわたり家業の寿司店を守り続けたのち、平成12年、51歳の時に、その暖簾を弟に譲り、ここ木場に「一穂」を開業した。
「俺は下町の郷土食として、深川めしと葱鮪鍋を残したかったんだ」とご主人。その下町への愛は強く、「下町ってのは、江戸城の東側。神田、日本橋、京橋、深川、本所。下町とは農産物を生産できず、それを消費する商業地域で……」と、下町を語りだしたら止まらない! 最初は頷きながら聞いていたきたろうさんも、「都バスに乗ってんじゃないんだから(笑)」と遮って、次のおすすめをいただくことに!
ここでなんと「トルティーヤ」が登場! 生地の上に、野菜と鶏の照焼を乗せた「和風トルティーヤ」だ。生地をちぎって具材を巻いて食べれば、自家製和風ドレッシングが意外にもよく合い、「さっぱりしていておいしい! 野菜もたっぷりで健康的」と武藤さんも大満足。
江戸下町の郷土鍋! 絶品「葱鮪鍋」
夫婦の出会いを伺うと、「バツイチ同士なんです」と女将。東京都中央区八丁堀出身の清美さんは、江戸小物を扱う店で敏博さんと偶然出会い、互いに江戸っ子特有の明るくサバサバした人柄に惹かれあい、意気投合。交際を始めてから、ふたりで「一穂」を開業し、その3年後に再婚した。「人を好きになるのに、理由なんてねぇから」とご主人。女将は、「なに!? そんなカッコいいこと言ってんの!」とツッコみつつも嬉しそうに笑う。さらに、ご主人は「彼女は一本気で絶対に白いものを黒いとは言わねぇから融通が利かない。もうちょっと上手く世渡りすりゃいいのにとも思うけれど、それがいいところでしょうね」と頷いた。
続いていただくのは、「浅利の酢味噌がけ」。「あさりってのは深川の代名詞だから」とご主人。ふっくらと炊き上げたあさりに自家製酢味噌をかけた一皿は「すごくさっぱりしていておいしい!」と武藤さんも気に入った様子!
ところで、店名「一穂(いっすい)」の由来は、「ひとつの穂がやがてたくさんの稲穂となること」だそうだが、ご主人は、「だいたいの人が読めないですよね」と苦笑いだ。そんな「一穂」の魅力を常連さんたちに伺おうとすると、「この辺のボスがいまして……(笑)」とご主人が紹介してくれたのは、深川八幡祭り(通称 水掛け祭り 毎年8月中旬に開催)で地域を取りまとめている高橋富雄さん(80歳)。「ここは料理は旨いし、いろいろと気にかけてくれる」と言い、別の常連さんが「大将のお話もすごく楽しみ」と言うと「仕事しないでしゃべってるだけ!」とツッコむ。そしてさらに「大将が女将の言うこと聞かないから、ふたりはケンカしてばっかりですよ」と茶目っ気タップリに笑うのだった。
「いろんな人と出会えて、毎日新鮮。二人とも東京出身なんで、いろんな県から来るお客さんの聞くのも楽しい」と言う女将。きたろうさんが、「大将と出会ってなければどうしてたと思う?」と聞くと、「平凡な主婦かな? まさかこうなるとは思ってませんでしたから!」。一方、ご主人は「一緒にやってきてくれてありがたいですよ。それが全て」と女将に感謝するばかり。ふたりで店を開業して25年。夫婦二人三脚で、下町の人気酒場を作り上げてきたのだ。ちなみに店では清美さんの息子・勇貴さん(42歳)も働いており、将来の跡継ぎも心配ナシ!?
最後の〆は店の名物「葱鮪鍋」。「具材はいたってシンプル。鮪トロと豆腐と葱、白菜。針生姜が味を引き締めてます。赤身だとパサパサするけれど、トロだからしっとりしてるでしょ」とご主人。きたろうさんは「確かに旨い!」と喉を鳴らし、武藤さんも「お出汁がしみてておいしい!」と舌つづみ。ご主人は、「これが江戸の下町の郷土鍋。ひとりでも多くの人に知ってもらいたい」と力を込める。
ご主人にとって、酒場とは「憩いと交流の場所」。女将は、「新しい出会いの場所」。下町の江戸っ子夫婦の掛け合いも楽しい一軒である。