浅草・田原本町の遠州屋といえば、魚好きの間ではつとに知られた店。地下1階から3階まである立派な店舗で、創業49年の歴史を誇る、高級素材を使ったコースも楽しめる店だが、身近な酒場としても素晴らしい。きたろうさんと西島さんは、39歳の若き二代目・安喰伸明さんに焼酎ハイボールをお願いして、長年通う常連さんと乾杯。最初のおつまみをお願いすると「じゃあ、うちの定番、マグロのブツで」と二代目。3年前に亡くなった先代は、もともとこの店をおいしいマグロを安く出す、マグロがメインの店として始めた。先代と苦楽を共にした女将によれば、最初は一皿50円だったという。そんなマグロのブツは、贅沢な厚切りで食べ応え十分。赤身のしっとりした食感に、「うちは生を使ってます。生マグロなんです」と二代目の説明を聞いて納得。「マグロはね、赤身が旨いと思えるようになると大人なんだよ。トロが旨いなんて言うのは、まだ子供だよね」と気取るきたろうさんに、「そうですか?」と上品に微笑む女将。酒好きなら分かる、この通じる感じ。それがなんとも心地よい。
マグロを完食し、次に登場したのは、これからの季節が美味しくなる鮎の塩焼き。「京都にいるみたい!」と喜ぶきたろうさん。今年初の鮎だという西島さんは「まぁ身が厚い事。ホクホクぅ! お酒が美味しいよぉ!」と、一気に意気が上がる。さらに次のオススメ料理、ハゼの天ぷらが登場するにいたっては、「ハゼ! 私ハゼを食べた事が無いかも!」「ハゼの天ぷらなんて、もう料亭だよ」と、2人は驚くばかり。「今は東京湾がきれいなんで、浅草でも釣れますよ」と二代目は言うが、それでも珍しい食材。職人さんの揚げ具合も完璧で、2人はこれまたすぐに完食。さすが遠州屋、その名声に嘘は無しだ。
裸一貫、一代で今の店を築き上げた先代の金司さん。「魚でどこにも負けない店を作りたい」との思いで、毎日市場に通い、新鮮で美味しい魚の見分け方を独学で会得。魚河岸の人は言う「我々なんか太刀打ちできないですよ。それ以上に人間としても素晴らしい人でしたよ」。べらんめぇ調で誰にも厳しかった先代だが、職人や市場の人、そして何より客に好かれた。そんな父の背中を追うように、伸明さんが暖簾を守る決意をしたのが14年前。先代と二代目の喧嘩は日常茶飯事だったが、常連さんはそれを「この店のBGMだから」と温かく見守っていたという。そして今、仕入れを人にまかせず、千住か築地まで毎朝足を運ぶという二代目。暖簾を守り常連客を納得させ続けるためには、父に勝るとも劣らない目利きの力と、魚河岸の魚のプロから信頼を得なければならない。魚河岸の人は言う「二代目も一生懸命やってるからね。そこそこ、なかなかうるさくって(笑)」。先代の後ろ姿は遠く大きい。しかし、だからこそ追う価値があるというものだ。
最後の一品は「さばの味噌煮」。先代の頃から半世紀変わらないという味付けは、新鮮なサバ本来の味と相まって実に上品。これには「なんにも言わずに、ただ食べてしまうね」と、きたろうさん。本当に旨い心に響く味に出会うと、こうなるのかもしれない。
日々精進し暖簾を守る二代目と、腕の確かな職人たち。これからの店に女将の心配は無いかと思いきや「結婚して10年目に、この子(二代目)を授かったんです。だからちょっと過保護に育ててしまって。後は私がやってるような事を、他の人がやってくれれば。夫婦二人三脚で……」。これにはきたろうさんが「魚ばっかり見てたらダメだよ! 女性をちゃんと見なきゃ。もうお見合いしかないよ、お見合い! もう、そういう結論になったから!」と大暴走。これには、二代目も苦笑い。先代も二代目の将来に期待しているに違いない。
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先代からのこだわりが、今も厳格に受け継がれている一品。生まぐろのブツ切り680円(税込)
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二代目によれば、腹に張りがあり、顔が鋭い感じの鮎がおいしいと言う。鮎の塩焼き550円(税込)
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一時は高級料亭でしか味わえなかった江戸前のハゼだが、今では東京湾もきれいになり、少し身近な食材に。ハゼの天ぷら700円(税込)
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田舎味噌をベースにした煮汁で、5分ほど煮込んだ上品な味付け。さばの味噌煮500円(税込)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都台東区寿2−2−7
03-3844-2363
月曜〜土曜17:00〜23:00
ランチタイム11:30〜14:00
日曜・祝日
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