サラリーマンならば、聖地巡礼よろしく、一度は新橋の酒場でネクタイを緩め、焼酎ハイボールでモツ焼きを食べてみたい。そんな要望に100%答えてくれるのが、名店「野焼」だ。細い路地、モツ焼き、鈴なりのサラリーマン……。“ガード下”でこそ無いものの、これほど“新橋らしい”店はそうない。調理場を担当するのはご主人の安西育勇(いくお)さんと、店長の桑島哲さん。そして女将の安西有子さんが、常連さんの間をスルリスルリと動いて接客する。いつものように常連さんと乾杯し、「染みる〜!」と乾いた喉を潤して、今回もスタート!
最初の一品は、もちろんモツ焼き。しかし「うちのホルモンは、外で七輪で焼くんですよ。中では焼かないんですよ」とのこと。店の外に張り出したカウンターは立呑みで、店内がいっぱいの時はウェイティングバーよろしく、モツを焼きつつ一杯飲めるスペースになっている。「今日ご提供できるのは、シロホルモン(丸腸)とタンの下の貴重な部位(あごした)、あとレバー」と、店長が出してくれた皿にはモツがたっぷり。絶妙な焼き加減で、ぽってり膨らんだ丸腸を頬張った瞬間、きたろうさんと西島さんの気分は一気に最高潮へ。「うまい!」「なに!このプリプリ感!」「こんな部分があるわけ?」「うまいよ、うまい」と、感激の言葉を連発。もともと肉の卸業をしていたご主人は、モツ焼きなど簡単だと思っていたが「ところが大変! そんなの素人でも出来ると思ったの。それが難しい!」と、その奥深さは想像以上だったという。「レバーとか、モツは鮮度が命ですから」と、ご主人は徹底的に鮮度にこだわり、激戦区・新橋で常連客を増やしていった。
次の一品は、ご主人と女将が畑で育てた野菜たち。「今朝、採った野菜なんです。今ならキュウリ、トマト、ナス。ナスなんか、生で食べられるんですよ」と女将。スーパーに並んでいる野菜とは色、艶、形が違う。西島さんは、太陽を浴びて育った路地野菜を「甘いんですよ、全然渋みもない」と絶賛。まさにココでしか味わえない一品だ。
店を始めて38年、一番辛かった時を女将に聞くと、ほんの3年前だと言う。ご主人が腹部動脈瘤を煩い、一度は店を閉める事も考えたが、そんな窮地を店長が救った。「15年近く一緒にやって、一度ほかの店で勉強してみたいと思って店を辞めて。そうしたら一年ぐらい後にお客さんから電話があって、“親方の具合が悪いよ”って。一生懸命育ててもらったから、出来る事があれば恩返しをしたいなと」店長は語る。ご主人は「腹の中では“いいよ。お前来なくていいよ”と。金もそんなにあげられないし」と思っていたが、店長の意思は固く、女将と暖簾を守ることに。「任侠だね」と思わずホロリとするきたろうさん。店長はご主人を「いい男ですよ。男が男に惚れる、そういう男ですよ。だから(ご主人と)どういう感じ?つっても、そりゃうまく伝わんない。俺と親父とは“あうん”の感じなんです」という。そう言われたご主人は「感謝? してないよ。というか言うもんじゃない。そりゃ分かってるよ。俺が分かってるんだから、それでいいの。俺の気持ちが分かってないなら、ついてこないよ」。二人の絆の強さの前では、言葉など不要なのだ。
最後の一品は、マカロニサラダを大胆にもグラタン風に仕上げた「マカロニのチーズ焼き」。「これはお腹がへってる時にガツガツ食べちゃう。確かに言われてみればマヨネーズの風味がしてきます」と西島さん。そしてお腹も気持ちもいっぱいになった二人は、最後に“ご主人と店長にとっての酒場とは?”を訊いてみた。ご主人は「人生に必要なところ」と答え、店長は「大人の寺子屋」だという。師匠と弟子、いやそれ以上の強い絆で結ばれた2人と、彼らを見守る女将の店で、酒場という名の寺子屋が開かれる。そんな“教え”“教えられ”といった風景こそが、真に新橋的な酒場の風景なのかもしれない。
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焼いて食べれば、すぐにその新鮮さが分かるモツ。焼きながら食べるなら外のカウンターだが、もちろん店内でも焼かれたものを食べられる。大腸500円、レバー450円、あごした500円(すべて税込)
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横浜に住むご主人と女将が、約600坪の畑で栽培している朝採れの野菜を提供。夏野菜の盛り合わせ480円(税込)
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熱したフライパンにマカロニサラダを入れ、チーズをたっぷりと乗せ、ケチャップをかけた後にチーズがほどよく溶ければ出来上がり。マカロニチーズ焼き350円(税込)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都港区新橋2丁目8−16
03-3591-2967
15:30〜22:30
土曜・日曜・祭日
- ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。