高円寺の庚申通りから小さな路地に入ったところにある、白提灯が目印の「焼き貝 あぶさん」は、8人も入ればいっぱいの小さな店。きたろうさんが「貝と書いてあるけど、貝しか出さないの?」と訊くと、きっぱり「貝しか無いですね、専門店です」と答えるご主人の延田然圭(よんぎゅ)さん。ハキハキとしっかりした話し方で、自信に満ちた姿が印象的な34歳。その自信も、連日満員の繁盛ぶりを見れば納得。いつものように常連さんと焼酎ハイボールで乾杯し、早速、自慢の貝料理をいただく事に。最初の一品は、白みる貝、いしがき貝、あおやぎの刺身三種盛りで、それぞれに持ち味が異なる。厚みと食べ応えがあり、この時期しか食べられないいしがき貝に「美味しい!コリコリしてて、くどくない甘みがある」とは西島さん。愛知県産の白みる貝には「みずみずしさにびっくりです。貝でもこんなに違うものなんですね」と、興味津々。
ネタのケースには、ズラリ10種近くの貝。「どこで仕入れるんですか?」と訊くと「築地が半分、産地が半分です。直接漁師さんに連絡を取ったり、現地に行ってパイプを作ってます」という。「お寿司屋さんに行っても、貝って高いじゃないですか。それを安く召し上がっていただきたいと思って」というご主人は、仕入れの労を惜しまない。貝を知るために「いろいろ買って食べましたね、剥いて食べて、剥いて食べて。火を入れると、味も食感も、香りも変わりますから」と語る主人が、次に出してくれたのが焼き貝。大あさりとも呼ばれる愛知県産うちむらさき貝に、北海道産のほっき貝と白貝の三種で2,000円。「これはもう正直儲からない。いっぱい飲んでいただかないと!」というご主人に応え、きたろうさんが速攻で焼酎ハイボールをおかわり!この焼き貝に加えられたアレンジが絶妙で、うちむらさき貝には生のり、ほっき貝にはカツオの酒盗を載せるのがあぶさん流。「しょう油以外で食べるほっき貝って珍しい。美味しいですね。ほっき自身の味が際立ってます」と西島さん。ほんの少しの塩としょう油で食べる白貝は、小さいが食べ応えのある貝で、肝も滑らか。あさりやはまぐりと似た食感だ。知らない貝の味を体験するという意味でも、お財布的にも、この店のおまかせ三種セットはおすすめだ。
高校を卒業して和食の店で7年半の修行を積んだご主人。「初任給は55,000円。同期で60人くらい入って、1年目で半分以上がいなくなって、僕が辞める時、残りは4人しかいなかったですね」という。独立後、料理の自信はあったが「最初の2年は、お客さんが全然来なくて辛かったですね。もう1日に1人とか2人とかザラだったんで。でも美味しい物を出していれば、いつか気付いてくれるというのが分かってたんで」と語る。そんなご主人の自信の象徴が、貝出汁茶碗蒸しだ。「貝のお出汁で作らせていただきます。具とか一切入っていなくて、出汁とタマゴだけで固めてます」という一品に、西島さんは「これは贅沢だ。きれいな味というか透明感がある感じ!この茶碗蒸しでノックアウトされたお客さんも多いでしょうね」と大絶賛。「これは温かい気持ちになるね。なんか入ってても美味しいと思うけどな。こんだけ美味しいんだったら」と笑うきたろうさん。究極的にシンプルに削ぎ落としたこの味こそ、ご主人の自信の源なのかもしれない。
最後に、これだけは食べて帰って欲しいメニューとして登場したのが、はまぐりの潮汁。ご主人曰く「まだ小さいほう」だという立派すぎるはまぐりの出汁は、旨味が体の隅々までゆっくり染み渡るよう。「出汁が濃いわ。しかし、貝は何のために生きてるんだろうね」と、きたろうさんは感動のあまり、あらぬ方向に思いが及んでいる様子。「分かんないです」と苦笑するご主人だが、この店の常連さんはきっと口を揃えてこう言うに違いない。「そりゃあ、この店で最高の料理になるためだ」と。
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貝の種類は仕入れによって変わるが、北海道から北陸、愛知まで旬の海の恵みがいただける。おまかせ活貝盛合せ2,000円(税別)
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殻の内側が紫色のため、その名がついたうちむらさき貝など3種。内容はその日の仕入れ次第。おまかせ焼き貝盛合せ2,000円(税別)
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あさりとはまぐりからとった出汁と、卵のみで作る茶碗蒸し。具は無くとも、貝の濃厚な出汁だけで十分に贅沢。貝出汁 茶碗蒸し480円(税別)
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貝を知りつくすご主人が、ほんの少量の酒とハマグリの出汁だけで作る潮汁。お酒のシメに、コレに勝るものなし!はまぐりの潮汁500円(税別)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都杉並区高円寺北2−38−15
03-3330-6855
17:30〜27:00
不定休
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