BS-TBS「〜癒・笑・涙・夢〜夕焼け酒場」 毎週土曜よる6:00〜6:30 BS-TBS 2015/10/31放送 #71 井口

決して器用ではなかった男が母の味を守りつつ、作り上げた店の味夫婦で耐えた4年があって今がある
母から受け継いだもの、受け継げなかったもの

地元商店街に、藍地に白抜きの文字で「やきとりや」の暖簾を掲げる「やきとり 井口」。世田谷の北沢、といっても若者で賑わう下北沢ではなく、東北沢、笹塚、代々木上原の駅のちょうど真ん中くらい。人通りの多い場所ではないが、開店時間になると、常連さんでいっぱいになる人気店だ。カウンターに座り、焼酎ハイボールで乾杯したきたろうさんが、おもむろに切り出す。「ご主人、あの有名な俳優さんに似てない?健さんに似てるよね」。かつて、きたろうさんも共演した国民的俳優・高倉健にそっくりなのは、ご主人の井口敬二さん。顔はもちろん、誠実だがちょっと不器用そうなところも……。そんなご主人を支えるのが、ニコニコ朗らかな女将の久美子さんと、息子の晴康さん。人情映画がすぐにも撮れそうなこの店で、今夜一夜の物語が始まる。

焼き場を担当する女将が、最初に出してくれたのは「焼き鳥のにんにくだれ」。シロやカシラといった複数の部位を、串から外して盛り、先代から受け継いだにんにくだれで食べる。「にんにくだれが、ガツンときますね。これは美味しい!」と西島さん。「これは、みんなでワイワイつまむと美味いね」と、きたろうさんも満足げ。このたれを作ったのは先代の女将で、ご主人のお母さん。肉の卸業をしていたのがきっかけで、昭和36年に開業したという。「私は大学を中退しちゃって、サラリーマンになろうと思ったんですけど、おばさんたちに反対されまして。それで仕方なく……」とご主人。その後、友人の紹介で久美子さんと結婚。久美子さんは「最初はどの焼き鳥を見ても、同じ焼き鳥に見えて、大変でしたね。串に刺しながら覚えましたよ」と語る。その後、先代女将からご主人に代替わりをすると、お客さんが激減。きたろうさんが「ぶっきらぼうだったんじゃないの?」と、ご主人に突っ込むと「そんなことはなかったんですけど、人生勉強が足りなかったんですかね」と生真面目に答える。

新たにたどり着いた夫婦の味が、店の味に

お客を呼ぶため、メニューを変えようと試行錯誤を繰り返したご夫婦が、1年かけて作った新メニューが「白レバー」。普通なら串に刺して焼く白レバーだが、こちらのそれは肉巻き串風。「レバーって普通、もっとブリンブリンした感じですよね。あぁ、でも美味しい。焼き加減が絶妙!」と西島さんから笑みがこぼれる。きたろうさんが串を頬張りながら「大変な時期は、どれくらい続いたの?」と訊くと、「3年から4年ですね。辞めようと思ったこともありましたけど、先代の時にはお客さんが入って、私に代わって入らなくなって、というのは……。ここで終わってたまるかっていう気になりました」と語る。夫婦二人三脚で料理の勉強を一からやり直した。そして先代の味を守りつつ、新メニューを開発する日々の末に、自慢料理がもう一品生まれた。

「それはね、骨も丸ごといけますよ」と常連さんが教えてくれたのは、自慢料理「鳥のテール煮込み」。「骨が軟らかい!どれくらい煮込むの?相当煮込んでるよコレ!」と、きたろうさんを興奮させた煮込みは、テールのゼラチン質が溶け出してプルプル。そこが女性にもウケたという。「こんなに流行っている今の店を、先代の女将に見てもらいたいね」と、きたろうさんが言うと、ご主人が照れる。西島さんが、そんなご主人に“あなたにとっての酒場とは?”と訊くと、「お酒を出したり、つまみを出すのは当たり前のことで……。最後はハートしかないですよね。ハートを売る、これしかないですよね」と、恥ずかしそうににつぶやく。きたろうさんはその姿を見て、じれったそうに「なんか、なんかさぁ……、なんかな……。いくらで売るんだハートを!」と叫んで、店は大爆笑!ご主人からにじみ出る誠実さに惚れ込んで集まる常連さん。そんな店を見て、きっと先代の女将も微笑んでいるに違いない。

やきとり 井口の流儀
その壱

カシラ、シロ、レバ、ナンコツといったおなじみの素材を、串を外して盛り、にんにく醤油をかけていただく。お酒のツマミにもってこい。焼き鳥のにんにくだれ450円(税別)
その弐

普通は濃厚な白レバを串に刺して焼くところに、一手間を加える。濃厚な味はそのままに、食べ応えをアップする、そのレシピは企業秘密なのだとか。白レバ焼き260円(税別)※数量限定
その参

焼鳥で言うところのぼんじりを3〜4時間かけて煮込んだ一品。焼き鳥の秘伝ダレが隠し味。鳥のテール煮込み450円(税別)
きたろうさんから、やきとり 井口へ贈る「愛の叫び」 健さんをこの酒場につれて来たかった。———きたろう
「やきとり 井口」
住所
電話
営業時間
定休日
東京都世田谷区北沢5−20−11
03-3466-9783
17:00〜23:30
月曜
  • ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。

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