看板の大衆割烹と並んで書かれた“ふぐ料理”の言葉に「ふぐなんて食っちゃっていいのかな」と、胸を膨らませ、暖簾をくぐった一行。大将の飯田幸男さんが包丁を振るい、女将と娘さん二人が手伝う店には、昭和の雰囲気が漂う。まずは「焼酎ハイボール2つお願いします」からの、常連さんとの恒例の乾杯。最初のオススメをお願いすると「今はふぐ刺しだね」とのこと。これには二人とも「オススメじゃあ、しょうがないな」「食べるしかない」と満面の笑み。贅沢な一品目に、どう食べると一番美味しいかたずねると、大将がふぐ刺しを器用に箸に巻きつけてみせる。少し厚めの身は、こうして丸めて頬ばると食感倍増。コリコリとした歯ごたえが楽しめるのだという。二人は「うんまい!」「美味しい!」と、それ以外の言葉を失ってしまうほど。
大将の料理の腕は、京都仕込み。料理人になりたくて、15歳の時に茨城から家出同然で、京都に行き職業安定所で就職先を探したのだという。「修行が厳しいといっても当たり前のことだからね。手も足も飛ぶけど、こんな性格だから、1回親方に鍋を投げ返したことがある。間違ったことをやって怒られたら“すいません”だけど、理不尽なことをされたから、ムカッときて。仕事が好きだから、続けられたけどね」。そんな大将が、修業時代から得意としていたのが天ぷら。その盛り合わせをもらうと、なんともボリュームたっぷり。揚げたてのエビをハフハフ頬張りながら「こりゃ高級料理店だね。やっぱりアツアツがうまいね」と、きたろうさん。13年の修業で磨かれた腕は、68歳となった今もピカピカなようだ。
大将と並んで厨房に入っている長女の友美さんに、きたろうさんが「娘は何の担当なの?」と訊くと「だし巻き」との返事。早速お願いすることに。昆布とカツオから取った出汁に卵を入れ、塩で味を整える。焼き方は卵を奥に返していく京風で、これは大将が京都の修業時代に覚えた技。その焼き上がりはフワフワで、口の中で出汁と卵のやさしい味が一気に広がる。「これは家庭ではできないよね。卵料理ってのは料理人の腕で本当に全然違う。親父の頑張りを見てると、子供は育つんだね、いい方に」と、きたろうさんが手放しで誉めたたえる。
見るからに頑固そうな大将に娘のことを聞くと「今ね足がパンパンにむくんでるんですよ。それを娘二人が、毎日揉んでくれて。(店を手伝ってくれることには)それはもう喜んでいます。お客さんが言うんです。娘が帰ってくると俺の顔色が変わったって、冷やかすんです。それまではおっ母ぁを怒鳴ってるでしょ?娘が来たらニコニコしてるって」。きたろうさんが、女将に「こんな頑固な親父、大変でしょう?」と訊くと「でも毎日、三食ご飯を作ってくれるから」とニコニコ。「家に帰ると、白髪を染めてあげたりとかね」とは友美さん。「大将が女将さんの? え〜、猿の夫婦みたい。毛づくろいみたいじゃん」というきたろうさんの言葉に、店中が大笑い。このアットホームな雰囲気のせいか、西島さんの顔がいつもより赤い。
最後に“これだけは食べて帰れのメニュー”をお願いすると「ふぐちりを食べてもらおうと思います」と大将。グツグツ煮立った鍋に向かい合った西島さんは「盛り沢山ですね、超フルコースです」と、気分は上がりっぱなし。「なんであんな格好してるふぐがうまいんだろうな。ねぇ?うんまい」と、ふぐの身にしゃぶりつくきたろうさん。「ふぐが出てくる店とは思わないよ。入り口見たらね」と言いつつ、この店の料理のうまさに感服しているようだ。酒場とは「お客さん同士が、和気あいあいと付き合える場所」という大将。その言葉を聞いた西島さんが言う。「ここにきてお酒飲んで、ご主人と女将さんと娘さんと喋ってお腹いっぱいになったら、多分嫌なことを忘れますよ。なんでも忘れちゃう。もう仕上がっちゃう」。その言葉に、この店の常連さん全員が頷くに違いない。
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この道50年という大将の包丁が冴える。少し厚みがある身は、歯ごたえ最高。ふぐ刺し2,500円(税別)
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揚げたてのアツアツでいただく天ぷら。ボリュームもたっぷり。天ぷら盛り合わせ1,300円(税別)
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京都仕込みの大将の技を、長女の友美さんが受け継ぐ。見た目も美しく、プルプルの食感は、まさにプロの技。だし巻400円(税別)
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フグから出る濃厚なダシで、たっぷりの野菜をいただく。フグの弾力ある食感もたまらない! ふぐちり鍋2,500円(税別)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都新宿区山吹町359
03-3260-5576
月〜金曜11:30〜13:00、17:00〜23:00
土曜17:00〜23:00
日曜
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