江東区森下で創業7年目を迎える「才谷屋」のご主人・鈴木耕一郎さんは、東海大学の元教授から転身したという経歴の持ち主。しかも理系の知識を活かして、他では味わえない一品を食べさせてくれるという。古めかしい「才谷屋」という店名のイメージとは異なる洋風の店内。焼酎ハイボールで乾杯し、西島さんが店名の由来を訊くと、待ってましたとばかりにご主人が「私が坂本龍馬の大ファンで、龍馬の本家の屋号が才谷屋なんですよ。龍馬の実像って、めちゃくちゃ人間くさいやつで、酒と金と女にはだらしない……」と説明してくれる。これを聞いて「はぁ〜、坂本龍馬には触れないようにしよう。長そうだよ、話が」と笑うきたろうさん。そしてオススメをお願いすると「うちは鰹以外はまずいよ」と、堂々と言い放つご主人。ならばと、鰹の刺身をいただくことに!
分厚い見事な鰹の刺身を出しながら「これは醤油じゃなく、お塩で食べて欲しい。美味しいカツオの味が一番分かる」とご主人。「う〜ん、すごいね。お肉みたいだ」「本当に脂がノリノリ」と舌鼓を打つ二人に、「この鰹、実は冷凍。しかも去年の」と、ご主人が驚きの告白。一度冷凍したお刺身は、水っぽくなるものだが「それはドリップのせいなんです。ドリップは解凍する時に出るもので、細胞膜が壊れて美味しさも一緒に出ちゃう。それで水っぽくなって、あんまり味がしない。今、冷凍技術というのはものすごく進歩しているけど、実は解凍技術がない。そこで某医療系の大学と共同研究で解凍技術を開発してるんです」という。龍馬好きが高じて度々訪れた高知で、鰹の目利き人と友達になり、解凍技術の確立を頼まれたご主人は、店の奥にプライベートな研究室をしつらえてついに解凍機が完成。ただいま特許出願中なのだとか。その解凍機の実力は、この店の鰹の味が見事に証明している。
次の料理をお願いすると「ここは深川、深川といえばアサリ。これをチーズと混ぜたらどうなるかと思いまして、深川チーズというやつを。付いてるワサビと一緒に、お醤油をちょんと落として食べてください」とご主人。アサリとチーズという誰も思いつかない組み合わせが、新鮮かつ美味しい。“料理と化学は基本的に同じだ”というご主人は、固定概念に縛られることを良しとしない。それは生き方にしても同じ。大学の職を辞した後、妻の忍さんに“何かやることはないの?”と言われ、酒場をやりたいと思い立ったご主人。勇気を持って一歩を踏み出したご主人には、それも人生の実験だったのかもしれない。意外な食材の組み合わせはこの店の味であり、人生の妙味でもあるのだ。
そして本日のメイン料理ともいうべき、鰹のたたきが登場。常温で解凍すると3時間はかかる鰹が、解凍機を使えば約30分。築地の寿司職人や仲買人が太鼓判を押したという、その鰹をさっと炙り、ネギではなくピーマンのスライスをどっさり乗せる。このピーマンがまた特製ソースと相まって絶品。昆布だしに、高知名産の柑橘ブシュカンの絞り汁を合わせたソースが、爽やかで濃厚な鰹の味を引き立てる。「う〜ん、美味い。なんだろうこの酸味は。いい味だね。フランス料理だね」と、きたろうさんも大満足。
最後の料理は、アジやイワシではなく、鰹を使ったなめろう。「先にこれで酒を飲んで、半分残してお茶漬けに。きたろうがなめろうってことで」というご主人の洒落に笑いながら、早速お茶漬けでいただくことに。「贅沢だなぁ。あぁ美味い。もう京都にいるみたい」「お茶漬けになると、なめろうの味噌が効いてくるんですよね」と、鰹づくしを堪能したきたろうさんと西島さん。いつものように“ご主人にとっての酒場とは?”を聞くと、「仕事で疲れた時の、心の翼を休める所でありたいと思っています」と、ご主人。大学から酒場へと人生の実験室を移したご主人にとって、お客さんと接する日々はきっと人生を探求する日々なのだ。
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ハワイ産の黒い塩をつけていただく、鰹のお刺身。身の柔らかい鰹は、冷凍、解凍を経ると食感が変わってしまうが、この鰹はそれを感じさせない。鰹刺身1,000円(税込)
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深川名物の大粒のアサリとチーズを和え、ワサビとごく少量の醤油でいただくオリジナル料理。まさに味の化学反応。深川チーズ500円(税込)
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コレとコレは合わない、という固まった概念にとらわれると新しいものは生まれない。意外な組み合わせを試してこそ新たな発見と感動を生むというのが、ご主人の考え。
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鰹のたたきといえば、たくさんのネギがかかっているのが普通だが、こちらのたたきにはピーマンのスライスがたっぷり。鰹オリジナルたたき1,300円(税込)
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元大学教授のご主人にとって、儲けよりも人と人とのつながりこそが酒場商売の楽しみ。
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ぶつ切りにした鰹に酒、味噌、ネギ、生姜、大葉を加えたなめろう。半分は酒のアテに、半分はご飯と一緒にお茶漬けでいただく。鰹のなめろう(ご飯付き)1,000円(税込)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都江東区新大橋1−1−6
03-6659-3993
17:00〜23:00
日曜、祝日
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