ことさら強調しなくとも、江戸っ子の店はどこか違う。雰囲気、客筋、そして店主の顔。墨田区墨田の酒場「肴屋 愛知屋」もそう。御年74歳にして元気いっぱいの声でお客さんを迎える女将の石川幸子さんに、女将の息子で調理場を担当する男前の大将・鉄之さん。そして、いつものように焼酎ハイボールで乾杯すると、元気な声を返してくれる常連さん。「おかあさん元気がいいなあ。もうずっとココで?」と、きたろうさんが訊くと、「ココで生まれてココで育って、もうずーっと。息子もそう」という。早速、最初のオススメをお願いすると、「熱いですから、器に触らないようにね」と、女将が出してくれたのは牛豆腐。たっぷりの湯気と一緒に、美味しそうな匂いが広がる。「和牛のスジ肉を時間かけて、お醤油であまっ辛く煮込んでます。お袋さんが40年間ずーっと作ってる味なんです」という大将の説明を聞き、フーフー息を吹きかけ頬張ったきたろうさん。「甘くてすき焼きみたい。玉子を入れるの、お母さんが考えたの? 豆腐と合うね」と、大満足の様子。
今は親子で商いをしているが、それはこの15年のこと。「あなたは義務教育だけで結構です」と言われるほどにやんちゃだった大将は、中学卒業後に和食店で修行。理解ある親方に後押しされて、精進を重ねたという。そんな大将のオリジナル料理「若鶏たたき」が二品目。なにより驚くのはそのボリュームで、きたろうさんが思わず「これは当然2人前だよね」と言ったほど。若鶏は中が少し生で、たっぷりの野菜とポン酢でいただく。「がっつりだよねぇ、鰹のたたきみたい」ときたろうさんが言うように、若鶏は分厚くて大きいのだが、サラダ感覚であっさりしており箸が止まらない。
女将さんが店を始めたのは40年前。それまで専業主婦をしていた女将が、店を始めたのには理由がある。当時、親子3人で住んでいたのは、なんと町会の会館の一室。大将は語る。「お袋の親父、おじいちゃんが町会を始めた人で、その集金や会館の管理をやってくれと。その会館というのが、戸を開けると土間で、お神輿を飾る場所だったんです。その奥に扉があって、そこに住んでた。祭壇を組むと部屋まで狭くなるし、お弔いの時とか、仏さんが寝てる横で寝てました。すると近所の人や同級生たちが“鉄ちゃん、タダで住まわせてもらってんの?”とか言われてね。で、何くそって、そういうことを言うやつを片っ端から引っ叩いて歩いて(笑)。それからですね俺の負けん気は」。そんな言葉に最も傷ついたのは女将だった。「“出たい”って言ったら“商売でもやるっていうんだったら止めることはできないけれども”って言われて、じゃあ商売やらなきゃって。それがきっかけです。でも、とにかくモノを作ることが好きだったから。小学4年から料理をやってたから、夢中になって働きました」。やがて大将も店を手伝うようになり、今や多くの人に愛される店となった。
最後の料理は「鶏ちゃんこ」。大将のメニューということは、やはりボリューム大。それも西島さんが「嘘でしょ!」というほど。その量を知っている人は、この1人前を3人で食べるという。出汁は、鰹節の一番出汁と醤油、みりんだけのシンプルなもの。自家製の鶏団子にたっぷりの野菜がヘルシーな鍋を食べたきたろうさんが「なんだろう、この甘みは?」と一言。大将によれば「ゴボウと鶏が混ざるとこういう甘みが出る」のだとか。シンプルだけど、素材を知り尽くした大将の鍋で、きたろうさんと西島さんのお腹はいっぱいに。
西島さんからお店を続ける秘訣を聞かれ「やっぱり体が丈夫でなくちゃできないです、それが一番ですね」という女将。それも働いているからこそ元気が保てるという女将に「じゃあ一生働かなきゃダメだね」と笑うきたろうさん。お客さんを気持ちよく酔わせて、お腹いっぱいにさせて、元気を保ち、人に分け与える。それがいかに幸せで、尊いことか。そんな大切なことを分からせてくれる名店だ。
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玉子、ネギ、豆腐に甘辛く煮た和牛のスジ肉で作る40年変わらぬ味。牛豆腐620円(税込)
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2人前はありそうな、たっぷりのボリューム。さっぱりとサラダ感覚で食べられる。若鶏たたき720円(税込)
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一皿を一人で食べて「あー、お腹いっぱいになった」と言える量が一人前、というのが大将の考え。いろいろ料理を楽しみたいなら、グループで訪れるべし。
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揚げ、ネギ、鶏団子、豆腐、麩、エリンギなど種類豊富な具を、シンプルな出汁でいただく。鶏ちゃんこ2,700円(1人前・税込)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都墨田区墨田3−41−17
03-3610-2445
月〜土曜11:30〜13:30、17:00〜24:00
日曜・祝日15:30〜23:00
水曜日
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