若い人の流れが途切れない吉祥寺、それも駅近の中道通り商店街に、創業41年目の名物酒場「やきとり みすず」がある。縄のれんをくぐると、店を切り盛りするご主人の鈴木貞夫さんと、息子の貞美さんが出迎えてくれる。老舗に似つかわしい老紳士の常連さんと、まずは焼酎ハイボールで乾杯。最初の串は、お店自慢の定番串「若鳥やき」。一目見て、普通の焼き鳥と違うのがその形。食べやすいように、モモ肉が三角形に刺されている。「タレが甘いですね。この味はお酒がすすむやつだ」と西島さん。毎日、貞美さんが刺しているという串は、ご主人直伝。出来上がりの形をイメージしながら肉を4つに切り分け、形を整えながらひとつ一つ串に刺していく。通常の仕込みより時間も手間もかかるが、その教えを頑なに守り続けている。
おすすめをもう一本お願いすると、出てきたのはレバー。こちらも、もちろん三角形になっている。「うまい!いい焼き方だね〜。絶妙の柔らかさだ。このタレの甘さは何で出してるの?」と訊くと、「しょうゆと砂糖とお酒。あとニンニクもかなり入ってますよ。焼いた焼き鳥をタレに入れるので、味が変わってくるんです。それでどんどん美味しくなる」と、ご主人。長い歴史と共に、今もこの店の味は進化しているのだ。
店の始まりは昭和39年にまでさかのぼる。この年、ご主人は奥さんと下着専門の洋品店を開業。「近所の人がみんな買いに来てくれて、繁盛しました。それがデパートができて、これは商売を変えなきゃダメだと。だけど、街の人の数は増えてきたんですよ。"これは食い物を売ったら必ず売れる"って、焼き鳥屋に変えたの」。「焼き鳥の焼き方も知らない素人から始めたの?」と、きたろうさんが訊くと「たまたま知ってる人がいたんで、ちょっと見せてくれっつって一週間見習い。その人が"このタレの作り方だけは書いちゃ困る"っていうんですよ。メモを取るなと。だからトイレでメモを書いてね、それで覚えた(笑)」。
そんな素人酒場のスタートは滅茶苦茶だったという。「朝の3時に寝て6時に起きないと間に合わない。1日16時間労働。みんなから"3年遊び"だって言われたけど、始めたら串に刺した分、全部売れるんですよ。おそらく、周りに店が一軒も無かったから(笑)。それで古い家で10年やって、昭和60年にビルに建て替えた。地下1階の地上4階!」。思わず「そんなに儲かんの?」と訊いたきたろうさんに、にっこり笑って「儲かりましたねぇ、まぁ今でも儲かってますけど。一生懸命やったおかげじゃないですか」と言い切るご主人。これにはきたろうさんも「努力なんてしてない顔ですよ!よくしゃべる親父だなぁ」と大笑い。「やっぱ、昭和10年前後の生まれの人は、もう食わないでもいいから働くっていう、そういう人が多いですよ。だから結局、親が一生懸命やれば、子供も一生懸命やってくれる」とご主人は言う。
次の串は豚の頬〜こめかみの部位、かしら。一口食べて、西島さんが「すごい歯ごたえ!」と驚いたこの串には、多くの手間がかかっている。「かしらには硬い肉と柔らかい肉あるんです。だから柔らかい肉を刺すと次は硬い肉を刺す。肉も丸く切ったらダメなんです。なるべく四角形に切る」とご主人。脂をたっぷり含んだ肉の旨みと、その歯ごたえを出すために加えられた手間。この店の人気の秘密がよく分かる一品だ。
最後の一品は「豆腐入り煮込み鍋」。グツグツ煮立った土鍋に、豆腐と煮込みが入ったこの一品は、開店当時からの人気メニュー。「うまい、ピリッとする感じのものが入ってる」という、きたろうさんの読みは当たりで、生姜をかなり効かせているのだとか。酒場によって様々な味がある煮込みだが、みすずの味もまた相当に個性的。お腹もいっぱいになり、満足げなきたろうさんが、最後に訊く。「今まで人生振り返って悔いはない?」。「35年間、働きっぱなし。今やっと午前中は寝床に入られるようになった。今、本当に幸せです。悔いですか、無いですね。やることやったって感じです」というご主人の顔には、一生懸命働いてきた人の、清々しい笑顔に満ちていた。
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もも肉を食べやすいように三角形に刺した串。これを40年継ぎ足した甘めのタレで焼いていただく。若鳥やき230円(1本・税込)
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臭みのない新鮮なレバーを、ふんわり絶妙の加減で焼いた一本。レバー160円(1本・税込)
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がむしゃらに働く父親の姿を見て、10年前にサラリーマンを辞めて店を継いだ貞美さん。今では仕込みの全てをこなす。
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食感を均質に揃えにくい部位を、串の刺し方で絶品の串に。その細かな手仕事が、人気の秘密。かしら160円(1本・税込)
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生姜を効かせた煮込みは、甘すぎず、くど過ぎず。熱々の土鍋でフーフー言いながら食べるのがオツ。豆腐入り煮込み鍋800円(税込)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都武蔵野市吉祥寺本町2−19−7
0422-22-7139
17:00〜23:00
日曜日、祝日
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