早稲田大学のある新宿区高田馬場。学生街で店の入れ替わりも激しい街に、昭和7年創業という老舗酒場「葉隠」がある。佐賀県出身の先代が、同郷の名士であり、早稲田大学の創設者でもある大隈重信にあやかり、この街に暖簾を掲げたという。今は二代目の深川正弘さんと、甥っ子で三代目となる俊之さんが厨房で腕をふるい、日々、常連さんで賑わっている。カウンターに座り「いい感じ。落ち着きますね」とは西島さん。焼酎ハイボールで乾杯して、最初のおすすめ料理をお願いすると「焼き鳥はどうですか? 焼きトンですけど」と二代目が出してくれたのは、こんがり脂の乗った“かしら”。ひとくち頬張り「美味しい!」と感激する西島さんに、二代目が「肌がツヤツヤになるんですよ、コラーゲンで」とニッコリ。続いての“なんこつ”は硬い部分を叩き、絶妙の歯ごたえを残す逸品。この2本の串だけで、この店のレベルの高さが分かる。
「うまいねぇ!」を連発するきたろうさんが、「大将! 葉隠って忍者のことですよね?」と言い出して、二代目がびっくり。「いえいえ、葉隠は侍のハウツー本みたいな、侍はこういう生き方をしなさいって書いてある本です。“武士道と云ふは、死ぬ事と見付けたり”とか」と聞いて、きたろうさん思わず照れ顔。この葉隠は、江戸時代に佐賀藩の藩士によって書かれたもので、その名を戴いた先代の、故郷への思いの深さが伺える。ならば次のつまみは佐賀料理?と思いきや、その名も“ロシア漬”。聞きなれない名前に想像を膨らます2人の前に登場したのは、なんと漬物。数種の野菜を塩で揉み、ドレッシングで和えたもの。使用する野菜の中でも、こだわっているのがたまねぎで、甘みの増す新たまねぎの時期にしか出さないという。「それがなんでロシア漬?」と訊くと、「雑誌だか、新聞だかでロシア漬ってのを見て、これなら漬けられるなって」と答える二代目。実は相当に料理好きで、研究熱心な人物のようだ。
子供の頃から、料理を作るのが好きだった二代目は、高校卒業と同時に先代のもとで修行をはじめた。厳しくも優しい父の背中を見て腕を磨き、新メニューを次々と考案。徐々にお客さんの評判も上がり、人気店になった。きたろうさんが「ワイシャツの着方とか、大将はおしゃれですね。酒場の親父という感じじゃない」と言うと、「それは昔から変わらないですよ。おしゃれですよね」と女性の常連さん。一方、誰からも好かれそうな笑顔が印象的な三代目は、18歳の時からこの店でバイトを始め、他の店での修行を挟みながら、25、6歳から店を継ぐべく精進。その関係は親子以上に強い信頼関係で結ばれている。
次のおすすめ料理は、これまた聞き慣れない“あげ巻”。オリジナル料理?と訊くと「オリジナル……かな?」と自信なさげな二代目。「またどこかで読んだんだね」と、きたろうさんが愉快そうに笑う。白髪ネギをお揚げで巻いて焼いたこの料理には、隠し味として味噌が塗ってあり、ネギの辛さと味噌の甘さが抜群のバランス。これまたネギの美味しい季節にしか出さないという。
そして最後の一品は“ちゃんぽん”。これだけを食べに来るお客さんもいるという看板メニューで、人気の秘密は一目瞭然。魚介や野菜などたっぷり12種類の具材で、2人前はあろうかという大ボリューム。鶏ガラベースの出汁と醤油のあっさりスープに、具材の旨みが溶け込み、きたろうさんも西島さんも夢中になって食べる。昨今、学生客は少なくなったというが、この一杯でお腹を満たした学生は多い。「学生だったお客さんが卒業して働いて、定年になるでしょ。そういう人がまた来てくれる。それが嬉しいねぇ。そん時は本当に楽しい」と語る二代目。自分の舌を信用し、美味いものを作り続ければお客さんは来てくれる。そう信じてきた二代目が、かつて学生時代にお腹を満たしてくれた味を求めやってくるお客さんに、変わらぬ一杯を提供している。二代目から三代目へ、代が変わろうともこの店の味だけは、決して変わることがないに違いない。
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コラーゲンたっぷりの「かしら」と、硬い部分を叩いて食べやすくした「なんこつ」。どちらも鮮度抜群の素材を使用。串焼(かしら・なんこつ)各1本150円(税別)
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新たまねぎ、人参、セロリ、きゅうり、ピーマン、パプリカ(赤・黄)などの野菜を塩揉みし、ドレッシングで和えた季節限定メニュー。ロシア漬580円(税別)
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味噌を付けたお揚げで白髪ネギを巻き、焼き上げる。ネギの美味しい冬から春までの季節限定メニュー。あげ巻580円(税別)
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美味しい料理を出し続けていれば、お客さんは来ると言い切るご主人。その言葉は、何十年と店の暖簾を守り続けた経験から生まれた確信。
白菜、ほうれん草、長ねぎ、人参、たまねぎ、もやし、干しシイタケ、豚バラ、かまぼこ、ツブ貝、イカ、きくらげ。全12種類の素材が入ってボリュームたっぷり、栄養バランスも万全! ちゃんぽん1,100円(税別)
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住所
電話
営業時間
定休日 -
新宿区高田馬場2−1−9
03-3209-3481
17:00〜23:00
日曜日、祝日
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