例えば秋刀魚の腸を、烏賊の塩辛を、蟹ミソを最上のごちそうとして頂く日本人。食材を余すことなく料理する点に関しては、天賦の才を持つ民族なんだと思う。明治維新を迎え、そんな愛すべき食いしん坊民族に“食肉”という文化がやってきた。
しかしその正肉は、長らく庶民には高嶺の花。そんな中、安くて栄養満点の臓物類に光を当てたのが、下町酒場の台所だった。味噌と生姜で、醤油に砂糖を、カレー味もいいかな、大根や人参を一緒に炊いて一石二鳥……などモツの傷みやすさと独特の臭いを克服するため、各酒場では研究に研究を重ねたのだ。
今回、散歩の達人が推奨する『三河屋』の煮込みは、牛モツを八丁味噌でこってりと味付けした名古屋風。牛の大腸や胃を下茹でした後、余分な脂や汚れをタワシで丹念にこそぎ落とし、ブレンドした味噌で2時間ちょっと。必要以上に煮込まず、一度冷まして味を染み込ませる。
「手間はかかるけど、絶対に目分量はしない。それが先代であるおばあちゃんの教えだから」と話すのは女将のいつ子さん。そう、煮込みは店のアイデンティティそのものなのだ。
そして、安くて旨い臓物を提供したいという思いと時を同じくしてメニューに加わったのが、これまた下町発祥と言われる焼酎ハイボール。その起源は諸説あるが、「昭和20年代、俺の親父やこの辺の飲み屋連中が、つまみに合う旨い酒を色々試してたら、“色つき”の焼酎ハイボールができたんだ」と店主の秀雄さん。
L字形のカウンターに鎮座する、抜き差しならないこの関係――下町の人情と英知が育んだ濃厚な煮込み&爽快な焼酎ハイボールが、今日もおっちゃんたちの足取りをいい感じに危うくしている。
そんな光景を思い浮かべながら、タカラ「焼酎ハイボール」を開けてみた。プシュッと景気のいい音が我が家に響けば、そこはもう下町酒場。寝床が近いぶん、ゆっくりとあの旨さが楽しめるねぇ。
- 創業は昭和初期。牛煮込み350円は八丁味噌を使い、こんにゃくも入った中部地方スタイル。氷は一切入れずに注がれる酎ハイボール250円との相性も抜群だ。近くを走る鐘ヶ淵通りは通称、酎ハイ街道と呼ばれている。京成押上線八広駅から徒歩8分。16時〜22時30分、日休。墨田区東向島5-40-6
03・3611・1832