下町大衆酒場物語 第十一回 焼鳥割烹 川名 阿佐ケ谷

昭和46年から店に立つ店主が考えたマジメ+笑いの"下町流"経営論

「マラソンが好き」と話す店主・川名茂さんに、店を長く続けるコツを聞いた。

「マジメに、変なことをせず、正しくやるだけです」

お通しはお客様本位でないと考え、出すのをやめた。かわりにお客様の健康のためオレンジを出す。「一人4杯まで」というルールは泥酔すると周りも本人も楽しくないから、と決めた。

「人は一人じゃ生きていけない。みんなのために働いていれば、時代だ、景気だなんて関係ないんだよ」

そんな店主が「これ、作るの大変なんだ」と自慢する軟骨入り豚もつ煮込みをいただく。軟骨を叩くのが大変らしく「煮込みが売れる寒い時期は具を牛スジにしちゃう。でも今年は読者のために12月いっぱい出すよ」のセリフに人柄がにじむ。そんなアッツアツの煮込みを頬ばると、塩ベースのスープに豚もつ、ごぼう、にんじんなどアクが強い連中が揃っているが、一切くさみがない。仕事が丁寧なのだ。この上質な旨みを冷えた焼酎ハイボールでグッと洗い流すと、味とさっぱりしたのどごしが混然一体となり、痛快に鼻へ抜ける。

「ウチは食材もいいんだよ。理由は取引先に"安くして"と言わないから。商売はお互いさまでないと長く続かないからね。すると逆に、いいものを安く仕入れさせてくれるんだよな」

多分、彼の人生はマラソンに似ている。短い期間で儲けようとすれば、誰かを裏切り、傷つける。だから、そうはしない。マイペースだから長く走れるのだ。

壁を見れば、所狭しと店主オリジナルのギャグが貼ってある。店主は「お金をいただいてお酒と料理以外にも何とか楽しんでもらえないかと思ったんだ」と頬を緩めた。お酒もギャグも庶民的だが、どこか、揺るがぬ品がある店だった。

若鳥、ねぎま、鳥皮、砂肝、鳥レバ、計5本の焼き鳥を盛り合わせた チキンセットは515円。夜が更けるとたいてい売り切れてしまう人気の豚煮込みは294円(季節によっては牛スジ煮込みになる)。その他、鳥、野菜の焼き物を中心に、各種メニュー105円〜

「焼鳥割烹 川名」
サービス品質維持のため、繁華街にありながら週休2日というマイペースぶりも特徴
東京都杉並区阿佐谷北3-11-20
03-3339-3079
16:00〜23:00
(ラストオーダー22:20)
月火
  • ※ 2013.12.2 掲載分
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