下町大衆酒場物語 第四回 伊勢元酒場 亀戸

「何も変えない」美学を貫く東京・下町の"思い出酒場"

常連の女性に"何年前からいらしてますか?"と聞くと、隣の男性客が「100年前だろ?」と突っ込み、一座は笑いに包まれた。

だが、100年は冗談としても店の歴史は長い。創業は昭和22年。旧日本海軍・南雲機動部隊にも所属した、今年95歳の平山金一郎さんが始めた。彼は「まだ焼け跡がくすぶってるような時代でね」などと話し、今も体調がよい時はお酌をして回るという。

そして現在、この店を切り盛りするのは金一郎さんの息子夫婦。
お店の特長は"何も変えないこと"だ。例えば、魚の仕入れ。

「今も築地に行って、自分の目で新鮮な魚を選んでます。最近はスーパーの魚も新鮮になったけど、昔から続けてきたことを変えたくなくてね」

内装も変えない。"昭和が残る感じが落ち着くんだヨ!"と話すお客さんが多いからだ。さらには名物・焼酎ハイボール。独自のエキスに焼酎を混ぜてコップに注ぎ、強炭酸を混ぜる。エキスも配合も、この店のオリジナルだ。

「なぜ変えないって? 理屈抜きですよ」

時代の荒波にもまれ、なお愛され続けた一品には理屈抜きのよさがある──。息子の隆夫さんがしめたこはだや、ロール型にら玉を頬張り、炭酸が強くて爽快な焼酎ハイボールを飲むと、つまみの濃い味と、のどごしの爽やかさが渾然一体となり、たしかに理屈抜きで「うまいッ!」。

そして、少し酔いが回った目で店内を眺めると、そこには黒電話と、それを使ったお客さんが10円玉を入れる箱が。あれ? 今は昭和何年だったかな──? 気付けば、昔の面影や懐かしい風景が頭の中を巡っている、伊勢元酒場はそんな"思い出酒場"だった。

写真の「こはだ酢」(380円)や、「天然ブリ刺し」(460円)など魚が自慢。"昔からこの形"の「にら玉炒め」(360円)は卵のふんわりとした食感がうまい。そのほか、モツのうまみが濃いめの汁ににじみ出た「肉にこみ」(380円))も人気の一品。

「伊勢元酒場」
鮮魚が自慢。築地で仕入れるだけでなく、ご主人が釣ってきた魚を出すこともあるという。
東京都江東区亀戸3-62-8
03-3681-8058
17:00〜22:00
日・祝
  • ※ 2012.11.26 掲載分
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