西新宿のビル群の一角に、まるで発酵食品のように、強い昭和の香りを漂わせる酒場がある。「ぼるが」。昭和24年にロシア文学が好きだった店主が創業して以来、癖のある連中が集まってきて、歴代店主も彼らを愛してきた。時には文学者の故・寺山修司や映画監督の山田洋次などが芸術談義に花を咲かせ、さらにはタレントの高田純次が、この店でたまたま劇団員と話し込んだのがきっかけで会社をやめ、芸能を志した などさまざまな歴史も持つ。3代目店主・高島東氏の自慢は、やはりこの雰囲気とお客さん≠轤オい。
「だからウチは昔のままなんです。店を増やせば仕入れの量も増えて効率がよくなるでしょ。でも効率なんか考えたら、必ずいい雰囲気は薄まっちゃう。内装も味も変えませんよ」
名物メニューは焼き物の盛り合わせ「ばん焼き」。店主は「この炭火は温度が高すぎて、耐熱煉瓦が2年ともたないんです」と苦笑しつつ、仕込んだハツや皮を焼き台に載せる。すぐ表面に脂がにじみ、炭火独特のジュワッと泡立つような焦げ方をする。一緒に合わせるのはこれも店の名物と言える「焼酎ハイボール」だ。
「『焼酎ハイボール』は昭和期、一般的にもっと濃かったらしいんです。うちはそのまま。ほかの店の3倍は焼酎が入ってますよ。これも変えません。常連さんに怒られるから(笑)」
豚モツは、高温で焼いただけあって風味が焦げ目の内側に閉じ込められ、噛むほどに甘い脂がにじみ出してくる濃厚な一品だ。この風味を「焼酎ハイボール」で豪快に飲み下すと、えも言われぬ香りがノドに残る。
なるほど、これは確かに変えられまい。この味、もはや単なる味ではなく昭和の記憶≠セったのだ――。
ばん焼き(500円)は、昔「ばん」という水鳥を焼いていたが、その呼び名だけが残った。ハツ、肝、皮など、新鮮な豚モツを5本セットで焼く。ねぎぬた(500円)は、季節の魚介と合わせる
- 店の入り口で炭火が真っ赤に燃える。店舗と内装は昭和の古い喫茶店の雰囲気
- 東京都新宿区西新宿1-4-18
- 03-3342-4996
- 17:00〜23:00(ラストオーダー22:00)
- 日・祝
- ※ 2014.7.7 掲載分
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