下町大衆酒場物語 第三回 十一屋 鐘ヶ淵

店とお客の交わりから生まれ 年月により磨かれた下町の味

『十一屋』の創業は昭和12年。以来75年間も続く下町の名店だ。特長は、個人経営の店でありながら、品数が100種類をくだらないこと。理由を3代目店主が話す。

「ある日、常連さんが入ってくるとまず、日替わりメニューをご覧になることに気付いたんです。きっと、お母さんに"今日のごはんなに?"と聞くような楽しみがあるのかな、と。そこでメニューを次々編み出したら、こんなに増えてしまったんです(苦笑)」

店の名物は、大将のお母さんが焼く、カキが入ったお好み焼きだ。

「実は、お店の奥でそばを打ったり、大判焼きを作ったり、いろいろ試してきたのよ。そしたらこのお好み焼きが当たってね……」

ようするに、企業であれば"マーケティング"とでも言うべきものを絶えず行ってきた、というわけだ。しかし、この店にそんな小器用な言葉は似合わない。大将が仕込みを手伝ってくれる奥さんを見て"効率の悪い店だけど、彼女に逃げられずに済んでるから何とかなってます"と軽口を叩くと、奥さんが"結婚前は店を手伝うなんて知りませんでしたよ"と苦笑した。お客さんが望むものを求めた結果、彼らは家族総出で働くことになってしまったのだ。

こんな話を聞きながら、自慢のお好み焼きと、炭酸が強めの焼酎ハイボールをいただく。カリッと焼けたお好み焼きの奥からにじみ出てくる濃厚な海鮮風味と痛快な焼酎ハイボールが最高に合う!
なるほど、店の歴史は自然と積み上がるものでなく、お客さんとの対話によって積み上げるものなのだろう。

だからこそ『十一屋』のカウンターは今宵もお客さんで鈴なりなのだ──。

大将が市場を訪ねて仕入れたネタで作る、ねぎまぐろのり巻(500円)は、ごはんが入っておらず、まぐろとねぎだけを巻いた一品。お好み焼き(750円)はカキ入りで、濃厚な海鮮の風味が特徴。すっきりとした焼酎ハイボール(270円)との相性も抜群だ!

「十一屋」
大将は若い頃、洋食を志し修業を積んだが「やっぱり人情あふれる店が好きだったから店を継いだ」という逸話も。
東京都墨田区墨田3-23-17
03-3611-4881
17:00〜23:30
(お好み焼きは17:00〜22:30)
水曜日
  • ※ 2012.09.10 掲載分
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