下町大衆酒場物語 第二十八回 かね将

世界に自慢したい!飲んべえが支持する濃厚で、かつ「ラクじゃない」串焼きの味

五反田の飲んべえの聖地「かね将」の開業は83年。店主・金子章治さんは「飲み屋でバイトしたのがきっかけでこの商売が好きになった」らしい。名物は豚モツの串焼き。当時、周囲に同業者が多く「違いを出さなきゃ」と芝浦の食肉卸に通って新鮮なモツを仕入れるうち、人気が出た一品だ。彼に商売の秘訣を聞くと、「ラクしないことかな」と言う。「卸の人も、毎日訪ねればいい品を譲りたくなるのが人情」だから自分が仕入れに行く。仕込みも「ボイルしたのを買うと味がちょっと違う」から、朝10時から手を動かす。

そんな串焼きが食欲をそそる香りをたて始めた。これが開店以来継ぎ足しのタレに漬かり、目の前に出されると、まず「このボリュームで1串100円!?」と驚かされる。しかし、もっと驚くべきは味の濃厚さだ。甘じょっぱいタレの味を楽しみつつかんでいくと、鼻の奥に、たん、レバ、はつ、それぞれの独特の旨みがちょっとほかにないほど鮮烈に広がってくる。なのに雑味がないのはこれぞ新鮮さの証だ。さらには名物「牛スジトマト煮」がすごい。大将の奥さんがフィリピ ンの方だから生まれたメニューで、肉の旨み、むちっとした食感、スープの美味しさ、そのすべてが世界に自慢したくなる下町の味なのだ。当然、合わせるのは焼酎ハイボール。炭酸の爽快さと、どんな料理の個性も引き立てるクリアな飲み応えが、目の前の味を幸福感へ昇華させていく――。

ふと見上げれば、調理場の天井を覆う金物が金色に輝いていた。長年、焼きものの煙にいぶされ、丁寧に掃除されてきた色合いだ。なるほど、この色こそが無言で、店が幸せそうな客でガヤガヤ賑わう理由を雄弁に物語っていた。

ホルモンは1本100円、牛スジトマト煮は420円(ハーフは210円)。すべて外税

「かね将」
ポテトサラダ、肉じゃがなどメニューのほとんどが手作り!旨い!
東京都品川区西五反田2-6-1
03-3495-4677
16:30〜23:30
無休
  • ※ 2017.12.25掲載分
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