下町大衆酒場物語 第二十回 野焼 大井町

さつま揚げも焼き鳥も「自家製」!店主が語る「ウマイ!」の方程式

「野焼」は予約も取りにくいほどの人気店だ。理由は約40年前の開店の経緯にある。当時は別のオーナーがチェーン店として経営していた。しかし、大井町のこの店だけ売り上げが悪く、テコ入れのため送り込まれたのが現店主の辻光雄氏。彼は賭けに出た。

「お客さんは必ずわかってくれるから、本物を出さなきゃ!と考えたんです」
例えば現在、焼き鳥は旨みが強い総州古白鶏を使っている。しかも、オーダーをもらってから肉を切って串に刺す。肉は細切れで保存すると肉汁が流れ出てパサッとするからだ。

「自家製さつま揚げも揚げたてです。練った魚に細かくしたイカげそを混ぜて、注文を受けてから揚げるとウマイ!ただ、仕込みに手間がかかるから店の近所に引っ越しましたよ(笑)」

すぐ売り上げは伸びた。この2年後、辻氏がオーナーに「店を買い取って独立したい」と話すと、彼の苦労を知ってか、オーナーは後押ししてくれた――。

そんな逸話を聞きながら、ねぎまを頬張った。パリッとした焦げ目にグッと歯を入れると、肉汁が飛び出してくる。ネギは内側がトロッとするまでよく焼けていて、鶏とネギの黄金コンビの風味が口いっぱいに広がるさまは、誰が何と言おうと下町の芸術品だ。ふわっふわのさつま揚げは、かむほど甘みが増し、飲み込むのがもったいなくなる。ここで「焼酎ハイボール」の出番だ。辛口の味わいをゴクッといくと素材の強い風味をザッと一新し、思わずうなりたくなる!

「おいしいものをつくるのは大変だよ(笑)。でもお客さんが感じたウマイ!≠ニいう想いこそが、店の本当の財産だからね……」
なるほど!言い回しも「ウマイ!」ではないか。

写真は、自家製さつま揚げ(490円)と、ねぎま(2串360円)、砂肝(2串240円)。もつ煮込(290円)も連日売り切れる人気の逸品

「野焼」
来年で開店40年を迎える。〆鯖390円も自家製の名物だ。
東京都品川区大井1-8-4
03-3777-5557
11:30〜15:00、16:30〜24:00(L.O.23:30)
日曜(月曜が祝日の際は日曜営業)
  • ※ 2015.12.21掲載分
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