下町大衆酒場物語 第八回 大統領 上野

無頼派小説に登場しそうなモツの店、今日も、昼から満員御礼

上野と御徒町の間にあるアメ横商店街は戦後の焼け跡にできた闇市がルーツ。GHQ払い下げのパンツを「Gパン」と呼ぶのも、人を「へイ!」と呼び止める習慣もこの街が発祥と言う。

そんな時代の名残を現在に伝えるのが「大統領」だ。店先に立って37年目の高橋清さんが話す。

「開店は昭和25年です。店名は、先代が開店した当時"ヨッ大統領!"という呼びかけが流行していたことから生まれたようですね」

この店の凄みは、今もガード下の天国として、世代を問わず愛されていること。上の写真は平日の昼に撮ったもの、と言えば雰囲気はお察しだ。名物料理は、来た客のほとんどが頼む「煮込み」。仙台のミソと愛知のミソを配合し、煮崩れしにくい馬モツをじっくり煮込むレシピは先代の頃からの伝統で、要は下町のグルメたちが長年かけ「これでよし」とした味なのだ。早速頬ばると、香ばしいミソの苦みのあと、馬モツの歯ごたえが口に伝わってきて、最後、モツからにじみ出た独特のうまみが鼻の奥にツン! とくる。

そんなつまみにピタッと合う酒といえば、もちろん、焼酎ハイボール。この店、炭火でパリッとやわらかく仕上げたモツ焼きや、最近出してくれる店が少ないくさやなど、鼻の奥で味わうメニューが多い。この香りを、焼酎ハイボールは痛快に流してくれるのだ。

少し酔いがまわった目で見渡せば、常連さんに混じって若い兄さんが赤ら顔をほころばせ、若い姉さんも携帯をいじりながらモツ焼きを豪快に頬ばっている。この上を時折、山手線が轟々と響きを残して通り過ぎる。時代によって変わるもの、変わらぬものは何なのか? 考えさせる何かが、ここにはあった。

店には、今年で63年目になる大御所や、呼び込みや注文の大声がうるわしい美貌の看板娘など、個性的な面々がズラリ。写真は、上から「くさやひもの」(400円)と「煮込み」(420円)。ほかの品にも「今日の食材は今日のうちに使っちゃうよ」というこだわりが。

「大統領」
丁寧に仕込んだモツ煮込みとモツ焼きが自慢。近隣に2号店もあるほどの人気。
東京都台東区上野6-10-14
03-3832-5622
10:00〜24:00
年中無休
  • ※ 2013.7.8 掲載分
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