下町大衆酒場物語 第十八回 大塚 鳥忠

不器用な父娘が半世紀もの間、暖簾を守る理由は「不器用だから」

活きたウナギをトーンとまな板に打ち付け、手際よく割く。これを串打ちし、蒸し、特製のタレをつけながらじわじわ炙る。大将の娘で気っ風のいい村田恭子さんが苦笑しながら言う。
「結局、ウチはなーんもわかってない店なんですよ」

調理の仕方でなく、値段のつけ方と手の抜き方がわかってない。ウナギは仕入れが安いと値を下げてしまう。つけあわせの山椒も、4度水を取り替え、酒とみりんでコトコト煮込んだ一品だ。焼き鳥も同じ。鶏肉は切ると肉汁が出てしまうから、さばいて数時間で出すのが最高! だから厨房に立って半世紀の大将が毎日仕入れ、黙々と串打ちし、すぐに出す。『カブみそ』のカブも、一段と手間がかけられている。
「おいしい水でできた氷屋さんの氷で冷やすから、カブが乾燥せず、内側まで柔らかいんです。冷蔵庫じゃ、こうはいかない。みそもウチでつくったものですよ」

恭子さんいわく、合わせる酒は『焼酎ハイボール』がおすすめだ。ウナギを頬張ると、脂とタレが混ざってパリッとした表面はあくまで香ばしく、ふんわりした中身に歯を入れると、想像以上に濃厚な旨みが溢れてくる。辛口でキレ味爽快な『焼酎ハイボール』と、この香りの組み合わせは、もっと知られてしかるべき相性のよさだ! さらにカブをかむと……信じてもらえるだろうか。根菜特有の味がみずみずしく広がり、まるでフルーツのようだ。
「結局、私たちは何にも商売がわかんないから、全部、お客さん視点でものを見てるだけなんですよね……」

器用な商売を見て、うらやましくなったこともあるかもしれない。しかし、どっちが本当にいい商売かは、話を聞きながら笑う大将の顔の年輪が物語っていた。

写真手前のウナギの蒲焼き(2300円)は仕入れ値によって価格が上下する。カブみそ(350円)は茎までうまい! キレのいい焼酎ハイボール(530円)とよく合う

「大塚 鳥忠」(しゅくず)
「お客様は家族同然」という無口な店主の無言のおもてなし
東京都豊島区北大塚2-13-5
03-3918-3352
12:00〜13:00、16:30〜23:00(L.O.22:45)
年末年始
  • ※ 2015.07.06 掲載分
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