下町大衆酒場物語 第二十四回 伊勢周 船掘

昭和27年創業。六十余年受け継ぐにこみ、人情、焼酎ハイボールの店

駅から歩いて15分かかるのに、夕暮れ時には、ほぼ満員。話を聞けば、理由がうっすら見えてくる。

たとえば、モツの「にこみ」の衝撃価格。評判がいいからと夏場以外はお通しで出すが、札には「お通し0円」の文字。二代目は笑って「昔からこうだから」と話す。さらには居心地がいい。7年前に広めのカウンターをつくったら、お客さんが中に入り向かい合って飲み始めた。三代目は笑ってこのレイアウトを採用。お客さんとともに歩んでいるのだ。しかも二代目に苦労話を聞くと「なかったね。消費増税だって、ウチは税込みだから関係なかったし」ってそれ、お客さんはいいけれどお店が大変でしょ!? そう、いい方向にツッコミどころ満載なのだ。

そんなわけで、まずはモツにこみを愉しむ。シメたてほやほやを仕入れ、お店で切って煮込んだ手のかかる品。一般的には切ってあるものを仕入れるが、女将いわく「ウチで切ったほうが断然香りがいいの」。こいつを口に?張ると、ああ、雑味がまったくなく絶妙にフニャトロ。これが「ウチは氷なし。量が減るし、薄くなるから」と女将が話す焼酎ハイボールと切なくなるほど合う! さらには串焼き。これも「新鮮なかたまりで仕入れて店で切る」らしく、がぶっとかじると、ハツならハツ、レバーならレバーの風味が口から鼻までいっぱいにひろがるではないか!

話が進むと女将は「ほら、幸せって他愛もないちょっとしたことでしょ?」と微笑んだ。ですね。アナタのちょっとしたこだわりが伝わってくるから、僕はいま幸せなんだなァ――などと思っていたら、二代目が可愛がっている近所の猫が裏口から入ってきて、ニャーと首肯するように鳴いた。

にこみ(380円)は、普段は少し小さめの器でお通しとして供される。とり、豚の串焼きは2本1皿で280円

「伊勢周」
店の札は「あえて高級感出ないようマジックで手書き」(三代目)なのだとか
東京都江戸川区松江3-3-4
03-3651-6013
16:00〜23:00
  • ※ 2017.7.4掲載分
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